事業を通じた持続可能な社会への取り組みにチャレンジする

(左)SCREENホールディングス 取締役(社外)ジーエス・ユアサコーポレーション 相談役 依田 誠
(中央)SCREENファインテックソリューションズ 上席執行役員 新規事業担当 吉野 裕文
(右)SCREENセミコンダクターソリューションズ 常務執行役員 TS製品統轄担当 CCS製品統轄部長 田中 眞人

開催日 2019年4月17日
開催場所 SCREENホールディングス本社

企業が持続的に発展していくために、地球環境と調和した経営を行っていく環境経営の重要性がますます高まっています。今回は、顧客のCoO※1低減と環境負荷低減に成功し社内表彰制度「Green Value Award」※2(以下、GVA)を受賞した枚葉式洗浄装置「SU-3200」「SU3300」と、燃料電池やリチウムイオン電池の生産に貢献するロールtoロール塗工乾燥装置「RTシリーズ」を中心に、SCREENグループの事業と一体化した環境経営の取り組みについて議論しました。

※1 CoO(Cost of Ownership): 半導体製造の設備投資や運営の経済性の評価基準で、製造装置の価格、生産性、信頼性、歩留まりなどから製品のコストを算出する。
※2 Green Value Award: 環境と安全衛生(EHS)に貢献する事業活動や製品・サービスを行っている組織を評価し表彰するSCREENグループ独自の社内表彰制度。6つの評価軸(先進性、独自性、応用性、継続性、経済効果、ブランド)で審査を行う。

CoOの改善が環境負荷の低減につながる

SCREENセミコンダクターソリューションズ
常務執行役員 TS製品統轄担当 CCS製品統轄部長
田中 眞人

依田 SU-3200、SU-3300は、顧客のCoOの低減をするだけでなく環境負荷低減にも大きくつながる取り組みとして評価され、GVAを受賞したそうですね。開発にはどのような背景があったのですか。
田中 半導体は集積度を上げるための微細化が進んでいます。半導体デバイスメーカーの大きな課題となっているのは、微細化に伴う線幅変更により製造コストも上がることです。微細化に対応し、生産性を高めることは当然ですが、製造工程で使用する薬液などの消耗品、電力などのエネルギーコストも下げなければ、求められるCoOの改善にはつながりません。
一方で、CoOを改善することは省エネ性能を向上することとも言え、環境負荷の低減につながります。
依田 この装置では薬液廃液量の大幅削減に成功されたことが画期的ですね。
田中 微細化に伴い、洗浄プロセスではウエハー上の汚染(マスク材料、ドライプロセス後の残渣、ゴミ)を除去するために、従来に比べ大量の薬液が欠かせなくなりました。薬液の中でも硫酸は使用量が多く、廃液の中和にも大きなコストがかかります。SU-3200、SU-3300では薬液の温度や洗浄方法などを最適化することで、薬液の使用量を削減し、生産性や省エネ性能の向上と併せてお客さまが求められていたCoOの改善目標を達成しました。また、水使用量の削減にも注力しています。
依田 私の会社でも鉛電池の生産で硫酸を使用しているのでよく分かりますが、硫酸は廃液の後処理のために大量の水や薬剤が必要で、エネルギーもたくさん使います。硫酸の使用量削減がCoOの改善と環境負荷の低減につながり、ビジネスとしても成功したということですね。
田中 お客さまから高く評価され、多くの受注に結びつきました。次世代の半導体生産において、当社の環境パフォーマンスに優れた装置がPoR(Process of Record※3)を獲得できたことが大きな成果です。

※3 PoR(Process of Record):量産ベースとなるプロセス。

燃料電池のイノベーションを起こす装置を造る

SCREENファインテックソリューションズ
上席執行役員 新規事業担当
吉野 裕文

依田 FTでも、ディスプレー製造の進化に合わせて環境対応を進めているのですね。
吉野 ディスプレー業界では液晶パネルのガラスサイズが進化の目安で、最初の第1世代(G1)と現在の第10世代(G10)では面積比が約100倍になっています。しかし、装置の稼働に必要なエネルギーを比例して上げることは認められません。使用する水も薬液も電気量も常に削減し、100倍のサイズアップでも電力消費量は約2倍に抑え、薬液使用量もほとんど増えていません。シビアなコスト意識が不可欠で、それが環境対応にもなっています。
依田 環境対応に加えて、FTでは再生可能エネルギーの浸透に貢献する新事業として、燃料電池やリチウムイオン電池の生産を支えるロールtoロール塗工乾燥装置(以下、RTシリーズ)を開発・上市しています。従来の装置に比べどのようなメリットがありますか。
吉野 RTシリーズにはリチウムイオン電池用と燃料電池用の2種類があり、リチウムイオン電池用は従来に比べ、設置面積を約40%、電力消費量を約20%削減したことが評価され、売上が増えています。燃料電池用は従来の約10倍の生産性で家庭用燃料電池(エネファーム)の生産にも採用され、非常に注目されています。
依田 世界の平均気温の上昇を産業革命以前から2℃未満に抑えるというパリ協定の長期目標を実現するために、温室効果ガスを出さない燃料電池による発電が切り札として期待されていますが、大きな課題は生産コストです。この装置はそこに貢献できるということですね。
吉野 はい。私たち装置メーカーが生産性に優れた装置を提供することで、イノベーションを起こし、燃料電池の市場を自ら創り出す、という自負のもと取り組んでいます。

脱炭素社会を実現するために

SCREENホールディングス 取締役(社外)
ジーエス・ユアサコーポレーション 相談役
依田 誠

依田 温室効果ガス削減のために自動車の電動化が注目されていますが、パリ協定の目標を実現するにはそれだけでは不十分でしょう。電力業界をはじめ、より多くの温室効果ガスを排出する産業分野で大胆な削減が必要です。SCREENグループではSDGsに取り組むなどで自社の温室効果ガスの排出を削減するだけでなく、効率的に生産できる設備を市場に提供し、それを使う企業での温室効果ガス排出の削減にも貢献している。とても素晴らしいと思います。
田中 装置メーカーとして資源枯渇や温暖化、有害物質などへの対策をロードマップ化して顧客にコミットし、達成するためのCIP(継続的な改善活動)に取り組んでいます。省液、循環再利用、代替品適用や省エネ、高効率化製品法規制への対応・禁止物質全廃などで、環境経営の推進が次世代のビジネスにつながっています。
吉野 欧米では、脱炭素社会のために再生可能エネルギーを利用して水素を精製・貯蔵し、利用する“Power to Gas”の取り組みが進められています。その実現のキーになるのが燃料電池の普及です。私たちの装置や技術が大きな貢献を果たすという信念をもって、さらに生産性を高める装置の開発に取り組んでいきます。
依田 20世紀の発明や技術は私たちの暮らしを便利で豊かにしてきましたが、その過程でマイクロプラスチック問題のようにさまざまな不純物を地球にまき散らしてきました。21世紀には、そうしたゴミや排出物をきれいにする産業革命が必要です。
SCREENグループは脱炭素社会の実現のために大きな貢献を果たせると思いますし、その取り組みがさらに推進されることを期待しています。

SCREENホールディングス 常務取締役
サステナブル経営担当
沖 勝登志

今回受賞したSU-3200、SU-3300は半導体製造工程の環境負荷低減に大きく貢献する装置で、RTシリーズも、リチウムイオン電池、燃料電池の生産性を飛躍的に高めて脱炭素社会の実現に近づける、ESGの課題に取り組んだ開発です。ともにお客さまの厳しい要求に対応しており、社員一人ひとりがサステナブルな社会の実現を目指す意識のもと、日頃から努力を重ねた成果と確信します。事業活動における環境・社会への配慮も企業価値の大切な一部です。今後も、すべての事業において、お客さまの要求への対応からさらに一歩踏み出して、環境などの社会的課題への対応に取り組み、そこにビジネス・オポチュニティを見いだしてくれることを望みます。

※文中の肩書きは取材当時のものです。