(中央)関口 祐輔 氏 MS&ADインターリスク総研株式会社
            リスクコンサルティング本部 関西支店長 主席コンサルタント
(右) 廣江 敏朗 HD 代表取締役 取締役社長 最高経営責任者(CEO)
(左) 朝永 正雄 HD 上席執行役員 サステナブル経営担当

文中の肩書は、座談会当時のものです。
本座談会は2023年3月28日に、京都市の当社本社で行われました。

地震や台風、豪雨、パンデミックなど、近年の自然災害やインシデントは激甚化が著しく、企業の事業継続を脅かすそれらのリスクへの対策の重要性が高まる中、BCMの構築がますます注目されるようになっています。
そこで今回は、MS&ADインターリスク総研株式会社の主席コンサルタント 関口祐輔氏をお招きし、当社のBCPにおけるグループ災害対策本部長である代表取締役社長(CEO) 廣江敏朗、副本部長であるサステナブル経営担当上席執行役員 朝永正雄を交え、SCREENグループのBCMの取り組みについて意見交換を行いました。(以下、敬称略)

BCMに対するSCREENの「考え方」、そして「目指すところ」

― SCREENグループは「サステナブル経営」を掲げ、多様なステークホルダーの期待と信頼に応えることで、サステナブル企業を目指した取り組みを展開しています。このような経営体制を敷く中で、BCMの位置付けとは?

廣江 社会的価値向上を目指す中期計画(以下、中計)「Sustainable Value 2023」に取り組んでいますが、その中でもBCMは非常に重要なテーマの一つです。当社グループのBCMは約20年前にSPE事業から始まり、東日本大震災を機に全社プロジェクトとしてBCP(事業継続計画)を展開し、コロナ禍を経て現在に至っています。私たちの主眼は、「社員とその家族の安全を守ること」を最優先に「お客さまへの供給者責任を果たし、事業を継続していくこと」。事業継続を進める上で、これらを併せて考えていかなければならないと認識しています。
当社では「リスクマネジメントの強化」をマテリアリティの一つに掲げており、事業が好調なときでも予兆を察知して速やかに対策を講じられるよう、リスク管理の強化を図っています。グループ全社で意識すべきリスクを一覧化し、さらに重点的に対応すべきリスクを特定して共有し、事業ごとにマネジメントするようにしています。さまざまなリスクの中には、自然災害や感染症によるパンデミックへの対応も含まれており、それらを体系的に管理する有効な手法として、BCMは必須であると考えています。

関口 貴社のように経営トップがBCMを先導している企業は、あまり多くありません。また、「供給者責任」はとても重要なキーワードですが、多くの企業は品質面や安全面に走りがちで、この言葉を前面に掲げる企業も多くありません。貴社はBCPを構築して訓練に努めておられますが、重要なのは継続していくこと。BCMの「M」は「マネジメント」なので、企業が存続する限り継続させなくてはなりません。そして、廣江社長がおっしゃったように、何よりも「社員と家族の生命と安全」が第一です。

― 「Sustainable Value 2023」の中でBCMを構築するために、日ごろからどのような目標を持って取り組んでいますか?

朝永 当社グループでは社長が、BCMの重要性を訴える強いメッセージを社内に発信しており、それによって価値観を共有しています。売上目標とは一線を画して、社会的価値向上を目指す中計にBCMも重点的な取り組みの一つとして盛り込んでいます。多様化・激甚化する災害の発生に備え、パニックに陥らずに対処できるような体制をグローバルに構築する必要があります。当社には多くのグループ会社があるため、体制を整理して具体的な対応策を進めているところです。

関口 貴社におけるBCMの位置付けは独自のもので、特に災害に対して慌てず迅速に対応する精神は企業文化の一つであり、「安全文化」を社長自らが先頭を切って推進しておられる。そこにはBCMに重きを置く姿があり、貴社の今後の発展につながる大きなポイントになると思います。一方、技術の伝承と同様に、BCMを継続していくための人材の育成も強化する必要があり、有事の際に意思決定者が不在のときでも、誰もが対応できる自律的な組織にする必要もあります。それらのことが、供給者責任を果たすことにつながると思います。

廣江 当社はもともと工場を中心とした組織でしたので、ひとたび工場長が号令を掛けると一斉に走るのが得意な面があります。統率の取れた組織運営としては良いことですが、一方でBCMを継続させていくためには、経営環境が大きく変化する現在において、もっと自分で考える自律型人材を増やさなければならないと考えています。そこで、「社員一人ひとりがソリューションクリエーターになりましょう!」と声を掛け、自ら考え、常に先を見据えた行動を取り続けることができるよう推進し、風土から変える取り組みを行っています。

BCM体制と、その取り組み

― SCREENグループのBCMの推進体制は、現在どのようになっていますか?

朝永 社長をトップとして、サステナブル経営担当組織の一つである防災BCM分科会(グループEHS委員会下部組織)がBCM推進機関となり、各事業所や事業会社に置かれたBCP担当組織を起点にグループ全社に展開しています。リスクの洗い出しと評価に始まり、平時の体制整備、そして災害時の体制整備を推進しています。災害発生時は、グループ災害対策本部を立ち上げて問題解決に立ち向かうわけですが、当社の「事業継続(BCM)管理規定」と国際規格「ISO 22301」を順守しつつ、どのような基準や手順に基づいて有事の体制に切り替えていくのか、細かく策定しています。

※ISO 22301:事業継続マネジメントシステム(BCMS)に関する国際規格。地震・洪水・台風などの自然災害をはじめ、システムトラブル・感染症の流行・停電・火災といった事業継続に対する潜在的な脅威に備えて、効率的かつ効果的な対策を行うための包括的な枠組みを示す。

廣江 2022年10月、大規模なBCP演習を実施しました。グループ災害対策本部長として指揮を執りましたが、とても臨場感のある演習になったと思います。反省点は、本部と災害発生地とのコミュニケーションが想定よりもスムーズに取れなかったこと。本部では被害の状況を把握し、それに対する復旧の計画を決め、進捗に従って安全状況を確認することがステップになります。しかし実際は、被害状況を把握しようとしても思うように情報が入ってこない、緊急物資がどこにあるのか十分に把握できていない。そういった課題が訓練によって洗い出されたので、とても有意義な機会になったと思いました。

関口 訓練は、あくまでも課題を洗い出すためのものであり、課題が洗い出せない訓練は、本質的な訓練とはいえません。情報が入ってこなかったのは慣れていないから。いざというときに体が自然に動くよう、BCP演習も頻度を高めるとよいと思います。また、大々的な演習とは別に、研修室に集まって1時間くらいで行うQ&A訓練もあります。それによって少しずつBCPを刷り込んでいく。何回かQ&A訓練を実施した後に大規模演習を行い、そこでまた課題を出す。とにかく課題を洗い出していくことが重要です。

― BCMに関連して、新型コロナウイルス感染症への対策の成果をお聞かせください。

廣江 コロナ禍では、生産現場を抱える各事業所の現地対策本部は、操業を継続するため、想定以上にピリピリしていました。経営として状況を把握するために2週間に1回、経営幹部への報告の機会を設けて議論を交わしました。この3年間、その体制を欠かさず継続し、何とか抑え込めたと思っています。未曾有の困難に一丸となって立ち向かい、結果として操業停止も職場閉鎖もありませんでした。皆さん、本当によく頑張ってくれたと感謝しています。

 

― サプライチェーンを含め、ステークホルダー全体の事業継続能力を高めていく重要性について、お聞かせください。

関口 どうしたら「Win-Win」の関係になれるかだと思います。有事の際に貴社だけが事業を継続できても成り立たない。まず、貴社の取り組みを積極的に発信していくことが重要です。サプライチェーンの中で補完し合うことに向けた取り組みは、貴社のBCMをさらに高度化するきっかけになると思います。サプライヤー企業の事業も守る視点で向き合えば、お互いを補完するための課題がきっと見つかります。

廣江 SCREENグループのサプライチェーンにおけるBCMの基本は「複線化」です。日ごろから複線化したチェーン網を張り巡らせ、各サプライヤー企業とのビジネス上の継続的な関係を築くことが重要であり、そこでしか関係は成り立たないと思います。データのミラーリングなど、何もかもが複線化している今、その意義を共有し理解していただくことにより、当社グループのサプライチェーンを作っていくことを基本的な考えとしています。もちろん、複線化が難しいシングルソースについても、きちんと管理していく。サプライヤー企業に対して私たちのビジネスをコミットすることで、共に事業を継続していこうというメッセージを発信しています。

関口 今後の有事に向けては、サプライヤー企業自身のリスクとして何があるのかを洗い出すことです。そして、ボトルネックは何かを明確にした上で複線化へと進む。BCMへの対応が難しい企業に対しては貴社が支援するなど、一緒になって取り組む。それが理想的な体系だと思います。

― ステークホルダーという面では、地域との連携もあると思います。具体的に取り組んでいることはありますか?

朝永 地域や近隣への協力は、規模の大小を問わずたくさんあると思います。例えば、京都市では地域ごとに防災用品を備蓄しており、それらを保管する倉庫を提供してもらえたら助かるとのことで、11カ所に寄贈しました。このように、まずは地域に求められていることから少しずつ取り組んでいます。

「BCMの高度化」の目指すところ、その進捗状況と今後の取り組み

― BCMの高度化に関して、進捗状況はいかがでしょうか?

朝永 BCMに限ったことではありませんが、サステナブル経営の追求はサプライチェーンを区別していては成り立ちません。まずはサプライヤー企業とのコミュニケーションの仕組みをしっかりと整理するという課題に取り組みます。
コロナ禍では、世界中に展開する当社グループとの連携の不備や難しさも学びました。やはり、グローバルを意識したBCMを構築し、それにサプライチェーンとの連携を掛け合わさなければなりません。
キーワードは「サプライチェーン」と「グローバル」。中計の切れ目を意識せずに重点的に取り組んでいるところです。

― サプライチェーンの構築を含め、SCREENグループとして企業のレジリエンスを高めていくために、そしてBCMを高度化していくために、必要なことは?

関口 サプライヤー企業との連携強化やグローバル対応が一番ですが、他の企業ではそれらが「壁」になっており、なかなか乗り越えられていません。いろいろな縛りがある中で、災害などが起きても事業を継続できるように、自分たちの仕事を変えていく取り組みは業務改善そのもの。そのことを今後のBCMの高度化に照らし合わせ、リスクマネジメントという広義なものの一部としてBCMの在り方を考える。貴社にとってサプライチェーンも含めたBCMは、心臓部ではないでしょうか。その心臓が今、強くなりつつある。だから今後、BCMが高度化されるとともにレジリエンスが強化され、貴社は発展していくと思います。

― ステークホルダー全体でBCMの高度化を図っていく中で、今後の方向性を鑑みて、社長としての決意をお聞かせください。

廣江 冒頭でも触れましたが、私たちは今、リスクマネジメントを強化していく必要があります。ガバナンスを強化する上でも不可欠なこととして、2020年から取り組んでいるグループリスク委員会を、一昨年から取締役会直下の組織としました。これは「感度の高いリスクマネジメントが重要」と考える私たちの強い意思の表れであり、こうした体制の中でBCMを含むあらゆるリスクを全て表面化させていきます。また、BCMをコミュニケーションツールとして駆使することにより、サプライヤー企業とも強固に連携するSCREEN流のリスクマネジメントを構築できると思います。BCMを含むリスクを「見える化」し、それに対して提言していくという、当たり前のことができるようにしていきたい。その結果として、BCMが確実に高度化していくと信じています。そしてBCMの高度化は、SCREENグループがサステナブルに成長する良い会社になっていくための、大きな要素になると考えています。

対談を終えて

リスクには日常的なものもあれば突発的に発生するものもあります。発生したリスクの規模感や事業への影響度もさまざまです。
リスクマネジメントを有効に展開するにはリスクを日常的にウォッチする組織が必要になりますが、SCREENではグループリスク委員会がまさにそれだと思います。また、リスクマネジメントとBCMの違いを語る際、想定されるあらゆるリスクの中で、自然災害など未然に回避できない大規模な危機、人命に影響を及ぼす被害の有無などの線引きが、従業員の方々にとっては一番理解しやすいと思います。「いざ発生すると大変。だから、BCMで備えるんだ!」と。
本日の対話の中で、廣江社長から「中期計画においてBCMに重きを置いている」とのお話を伺いましたが、このメッセージはとても重要です。BCMの高度化によって企業のレジリエンスが高まり、企業価値の向上につながることも併せて、もっと社内外に向けてアピールするべきでしょう。

関口 祐輔(せきぐち ゆうすけ)
MS&ADインターリスク総研株式会社
リスクコンサルティング本部
関西支店長 主席コンサルタント(2023年3月時点)
安全文化醸成、安全管理全般、災害リスク関連の体制強化・支援に強みを持つ。
 

文中の肩書きは、座談会当時のものです。