SCREENグループにとってのESG
〜「SCREEN Value(社会的価値+経済的価値)」 向上に向けて〜

(左)HD CSR推進室室長 長谷川 俊一
(中央)HD 代表取締役 取締役社長 最高経営責任者(CEO) 廣江 敏朗
(右)京都大学経営管理大学院 客員教授 京都大学ESG研究会 座長 東京都立大学大学院 特任教授 加藤 康之 氏

企業価値の評価基準としてESGがクローズアップされています。SCREENグループにとってのESGとは何か、どのように事業活動に取り込んでいくべきかについて、京都大学経営管理大学院客員教授で、京都大学ESG研究会座長の加藤康之氏と、当社代表取締役社長(CEO)廣江敏朗、CSR推進室室長 長谷川俊一が意見を交わしました(以下、敬称略)。
本対談は2020年3月25日に、京都市の当社本社で行われました。ソーシャルディスタンス確保のため、加藤氏はオンラインで参加しています。

事業活動とリンクしたESGで企業価値向上を目指す

廣江 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により事業環境が変化する中、新中期経営計画「Value Up 2023」(以下、中計)では、当社グループの企業価値を「社会的価値+経済的価値」と定義しています。過去の中計でもESGやSDGsに取り組んできましたが、事業活動とのリンク(連携)に重点が置かれていなかったというのが私の印象です。今、グループ各社ともESGの重要性に対する感覚が芽生えてきていますので、新中計ではそれを事業活動にリンクさせ、「社会的価値」と「経済的価値」を両立して向上していくことを目指しています。

加藤 ESG投資の最も重要なポイントは、ESG評価と企業価値の関係にあり、その研究が盛んに行われてきました。結論から言うと、基本的には織り込まれる。つまり、ESG評価の高い企業は企業価値が高いということです。特にG(ガバナンス)が非常に重要で、私の行った研究でもそうした結果が出ています。E(環境)とS(社会)も、最近は企業価値に織り込まれつつあるという研究が多くあります。今後はEとSのファクターに対する注目が高まり、株価にさらに織り込まれていくと考えています。

廣江 Eに関しては、SBT※にコミットし、2030年3月期を目指してCO2排出量の削減目標を定めました。それ以外にも、日々の開発や生産活動を通してお客さまの環境負荷低減に貢献するなど、当社グループがお客さまに提供しているソリューションを、積極的に社内で評価していきたいと考えています。また、製品の製造過程で発生する「廃棄ロス」の削減にも取り組んでいます。
Gについては、2014年にホールディングス体制へ移行後、各事業会社が部分最適・最大利益を目指すことで大きな成長を達成してきました。しかし、ここにきて、各社が最適を求めるがために、いわゆる遠心力(独立性とも言える)がかかり過ぎ、グループとしての一体感が薄れつつあるのではと感じています。新中計では、グループのガバナンスを強化するとともに、グループの一体感をより高める施策を盛り込みました。

リスクマネジメントを重点課題に

長谷川 CSR推進室は、コンプライアンスや企業倫理の強化を主眼として7年前にスタートした部門ですが、昨今は社会貢献などのより積極的なCSR活動に視野を拡げ、国連グローバル・コンパクトへの参画や、事業活動を通じたSDGsの実現にも積極的に取り組んできました。ただ、外部に向けてその活動をうまく表現できず、経営計画の中にも、より具体的な目標としては織り込めていなかったという反省があります。
新中計では、ソリューションクリエーターとして社会的課題の解決に取り組み、その成果を社会の変革につなげていくという廣江社長の方針を受けて、ESGを意識し、当社グループの社会的価値向上にもつながる具体的なCSR活動計画の立案を行っています。
社長から説明があったガバナンスの強化に関しては、グループ全体に横串を入れるリスクマネジメントがポイントとなります。グループ全体を俯瞰してESGの観点から重点的なリスクを絞り込み、それをホールディングスでモニタリングしていく。その中に、環境問題や社会的課題、サプライチェーンの問題も織り込むことで、リスクをチャンスに変えていきます。

加藤 ESG投資の元々のコンセプトはリスク管理です。リスクを下げて持続性を高めるという発想で、研究でも、ESG評価が高い企業はリーマンショックのような経済危機の際にも企業価値を下げにくいという結果が大半です。長期目線の投資家による保有が多いため、ショック時でも株式を売られることが相対的に少ないことが理由として挙げられます。今回のコロナ禍でも、ショック明けに最も注目されるのは、ESG投資になることは間違いないと考えています。

廣江 新中計の中でも、リスクマネジメントは重要課題の一つと捉えています。COVID-19の対策についても、パンデミックを想定したBCPプログラムを以前から準備していましたが、現実に起こってみると、想定していなかったことが露呈してくることもありました。リスクマネジメントの手法と、実態の事業活動とのギャップを埋めていくことの重要性を改めて認識しており、是非解決したい課題です。

ESG、SDGsをベースにした企業価値の向上

加藤 投資家の目線では、ESG評価はリスクを見る指標であり、SDGsは企業の成長性を見る指標として捉えられるというのが私の理解です。今、投資家と企業、あるいは投資家とその背後にいる最終投資家とのコミュニケーションにおいて、ESGとSDGsが共通言語になりつつあります。
長谷川 企業価値向上への手掛かりの一つとしてSDGsがあり、一方で、投資家の目線としてESGという切り口があって、どちらもしっかり対応していく必要がある。目指すところは同じですが、理解の仕方を整理していく必要がありそうです。事業を通じた社会の変革という視点だけでなく、例えば、環境を意識した生産の変革や働き方改革といった視点、さらに産学公連携の取り組みのように、事業活動の結果として得られた利益や知見を地域・社会に還元していくこと。いずれもさまざまなステークホルダーを意識した社会貢献であり、これらの取り組みがすべて社会的価値の向上につながっていく。この切り口でESG、SDGsの両方をカバーしたいと思っています。

加藤 まさにそのとおりですね。ESGはどちらかというと「やり方」に近く、ガバナンスも改善していくし、雇用・労働環境も良くして、工業的な排出物も減らしていくというのが着目点です。一方、SDGsはビジネスとして何をやっていくかという「方向性」だと考えています。

廣江 「SCREEN Value」として定義した「社会的価値」と「経済的価値」の両立が、私たちの存在価値です。開発やイノベーションを進めて技術、製品、サービスなどを通じてソリューションをお客さまに提供することで、どのような社会的価値を生み出していくのかというイメージを持ちながら、事業活動を営みたいと思っています。その活動サイクルを通して、社会やステークホルダーの皆さまに価値を還元していくモデルを全社員が実感できるよう、新中計の仕組みづくりを進めます。ESGの数値目標やSDGsの理念は、そのサイクルと自然とつながっていくもので、取り組みを通じてわれわれ自身の価値がさらに高まると信じています。企業価値向上へのベースとして、経営の基本的な考え方に取り組んでいきます。

※文中の肩書きは取材当時のものです。

※ SBT(Science Based Targets):科学的根拠に基づいたCO2排出削減目標の設定を求める、地球温暖化防止に向けた国際的なイニシアチブ