Doc. No.: NR220809

広島大学と株式会社SCREENホールディングス(以下、SCREEN)はこのほど、SCREENが開発した腎臓移植用医療機器「オーガンポケット」の安全性および有用性を確認する臨床試験を終了しました。今後、医療機器として販売するとともに、腎臓以外の臓器への展開も視野に入れ、研究開発を進めていきます。

腎臓移植において、ドナーから摘出されて冷却保存された腎臓は、移植手術における血管吻合※1中に、術者やドナーの体内組織との接触による加温で、温虚血障害※2のリスクにさらされます。この腎臓の温度上昇に対処するため、これまでは冷却した生理食塩水の散布などを行っていましたが、効果が一時的であることや散布の量やタイミングなどの条件設定が難しいことから、効果的で標準化された温度抑制方法が求められていました。

このような課題に対してSCREENは、慶應義塾大学医学部臓器再生医学寄付講座(現 東京慈恵会医科大学腎臓再生医学講座 特任教授)の小林 英司教授との共同研究を通じて、臓器を一時的に被覆して冷却状態を保持するための医療機器「オーガンポケット」を開発しました。この製品は特殊ゲル素材でできた巾着袋状の器具で、腎臓移植時に移植臓器を包み込むことで術者や患者からの接触熱や物理刺激を遮断して臓器を適切に保持する医療機器となります。透明で非常に柔らかい特殊素材が密着して腎臓を保護しつつ、製品開口部から露出した血管や尿管の血管吻合が可能となります。腎臓に血液が再灌流されたのちにオーガンポケットは臓器から取り外されます。製品性能試験では、37℃に設定した疑似腹腔環境下で、4℃に冷却されたブタの腎臓を設置すると、通常は10分後に表面温度が体温付近まで上昇するのに対し、オーガンポケットを使用すると30分後でも20℃以下の表面温度を維持していることが確認されています。

広島大学ではこのたび、腎臓移植におけるオーガンポケットの安全性、有用性および手技的妥当性を評価するため、広島大学大学院医系科学研究科消化器・移植外科学の大段 秀樹教授の主導のもと、臨床試験を実施しました。10症例の非盲検非対照単群試験※3において、オーガンポケットを使用した腎グラフト(移植腎臓)の表面温度は中央値16.1 (12.8-18.7)℃に抑えられたことが確認されました。これにより、オーガンポケットの使用は、昇温抑制をより確実に行える手技であることが示されました。臨床試験の結果は年内に学会などで発表予定となります。

臨床試験で確認されたオーガンポケットによる臓器保護で、移植医療の手技の確実性を高めることが期待できます。本製品は医療機器として届出済で、SCREENが製造・販売していくとともに、今後は腎臓以外の臓器への展開も視野に入れ、研究開発を進める予定です。

広島大学とSCREENは、今後もアカデミアと企業との共同研究を通じた産学連携を強化し、移植医療への発展に貢献していきます。

※1 血管吻合 移植手術において、ドナー臓器の動脈や静脈、尿管をレシピエント側につなぐこと。
※2 温虚血障害: 血流のない状態で生体組織が体温下にさらされると(温虚血)、酸素や栄養素の不足で細胞の恒常性が維持できなくなり障害性のある物質が細胞外に放出される。血液を再灌流した際、障害性物質の循環によって臓器の機能が不具合を引き起こす。
※3 非盲検非対照単群試験: 比較対照の設定を行わず、製品を使用した試験群のみで実施する臨床試験。

 

■ 広島大学大学院医系科学研究科消化器・移植外科学 教授 大段 秀樹のコメント

移植臓器は、血流が再開されるまでの期間は可能な限り低温で維持して、細胞代謝を抑制して臓器障害を減少させなければなりません。オーガンポケットは、手術中に移植臓器を低温に維持することができるこれまでありそうでなかった臓器遮熱製品です。安定した移植成績に貢献することが期待されます。

■ 東京慈恵会医科大学 産学連携講座 腎臓再生医学講座 特任教授 小林 英司のコメント

SCREEN社初となる医療機器を臨床応用まで共同開発できたことは産学連携の大きな成果です。オーガンポケットは移植手術の現場のニーズから着想しましたが、他領域の企業研究者らが情熱をこめて製品化し、広島大学が見事に臨床試験を成功してくださったことに最大限の敬意を表します。

■ 東京女子医科大学 医学部医学科 泌尿器科 田邉 一成のコメント

臓器移植において移植臓器を適切な温度で管理することは移植臓器の機能温存において極めて重要であり、今回新規開発された移植臓器の低温を維持しうるオーガンポケットは、移植臓器の機能温存の一助となることが期待される。

■ 株式会社SCREENホールディングス 常務執行役員 大塚 純二のコメント

オーガンポケットは慶應大学(当時)の小林先生との製品開発を経て、広島大学の大段先生・井手先生のご尽力による臨床試験によって製品の有用性を示していただきました。弊社は今後も産学連携を通じて、医療現場の課題に対するソリューションクリエーターとして製品・サービスを提供してまいります。

本件についてのお問い合わせ先

広島大学病院 広報・調査担当役 古市
Tel: 082-257-5418  E-mail: byo-toku-chousa@office.hiroshima-u.ac.jp

株式会社SCREENホールディングス 広報・IR室 広報部
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