Doc. No.: HD250603

ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社(以下「ソニー」)、株式会社SCREENホールディングス(以下「SCREEN」)、株式会社VitroVo(以下「VitroVo」)は、総電極数約23.7万個の高密度CMOS-MEA*1を活用したMEAシステムを共同開発し、試験提供を開始します。ソニーの先進的なセンシングデバイスとSCREENグループの細胞の電気的活動を計測する技術、およびVitroVoのMEAを活用した化合物評価やデータ解析の知見を生かし、従来は困難だった高密度での細胞活動データの計測・記録を実現し、細胞の活動状況を高精細に可視化することで、主に神経・心臓の疾患・創薬研究への貢献を目指します。

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(左:MEAシステムのハードウエア、右:計測アプリケーションのUIイメージ)

新薬の研究開発では、非臨床試験における効果測定や安全性評価の精度向上、開発プロセスの更なる効率化が求められています。さらに近年は、新薬の臨床試験前に義務付けられている動物実験を代替する新たな実験手法として、AIなどの先端技術やヒトiPS細胞由来の神経・心筋細胞やオルガノイドなどの生体模倣システムを活用し、実験動物を用いずとも、化合物の人体への影響を高い精度で評価可能にする新技術の開発ニーズも高まっています。また、疾患研究においても、より精緻な細胞データの取得が研究活動に寄与すると期待されています。

今回3社が、東北工業大学(以下、東北工大)の協力を得て新たに開発した高密度MEAシステムは、疾患・健常細胞の差異や化合物に対する細胞の反応を、細胞の電気活動のデータを元に、一細胞レベルで観察可能にします。具体的には、ソニーが開発中の高密度CMOS-MEAと、SCREENグループが有する細胞の電気活動の計測技術を組み合わせることで、細胞外電位を高密度に配置された微小電極で検出し、画像データとして出力します。これにより、ユーザーは細胞の発火*2をモニタリングしながら、その反応を計測・記録することが可能です。さらに本システムには、ソニーと東北工大との共同研究を元に、VitroVoが化合物評価向けに最適化したアルゴリズムと、ユーザー視点での操作性を追求した解析アプリケーションが実装されています。これにより、電位や画像などの計測値から算出される細胞の発火頻度などの解析結果が、モニター上に速やかに表示されます。これらの計測・解析機能で、従来のMEAシステムよりも高密度な細胞活動データの取得が可能になるとともに、ユーザーにとって計測が困難だった実験結果を得ることができます。
本システムを活用することで、高密度な細胞活動データに基づき、疾患の表現型の研究や、これまで主に実験動物を用いていた新薬候補化合物のリスク評価や薬効評価の効率化に貢献できる可能性があります。また、神経細胞の活動が観察可能になることで、うつ病や統合失調症などの精神疾患や、筋萎縮性側索硬化症(ALS)やアルツハイマー病などの神経疾患に向けた新薬の研究開発や、脳科学の基礎研究での活用も想定されます。

本システムおよび評価方法の有効性検証や、商用化に向けた技術開発を推進するため、3社は共同で、医薬品開発に携わる企業や研究機関に向けて、本システムを試験提供します。SCREENによるシステム提供に加えて、VitroVoが、細胞の培養手順やカスタムデータ解析支援に関するコンサルティングを実施し、システム導入を支援します。同時に、VitroVoは、本システムの有効性を確認することができる受託試験サービスの提供も開始します。試験提供を通じて得られるユーザーからのニーズを踏まえ、システム開発と市場調査を加速させ、CMOS-MEAを活用したMEAシステムの商用化を目指します。

*1 CMOS-MEA: 相補型金属酸化膜半導体(Complementary Metal-Oxide-Semiconductor)技術を応用し、微小電極アレイ(Microelectrode Array)で細胞の電気活動を検出するデバイス
*2 細胞の発火:神経細胞が活動電位を生成し、電気的興奮を引き起こすことで神経伝達物質を放出し、周囲の神経細胞へと情報を伝達する現象のこと。細胞の発火により、脳および神経系において情報伝達が可能となる。

 

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<CMOS-MEAについて>

  • CMOS-MEAは、細胞の電気活動をリアルタイム計測することができるデバイス。センサーチップ上に高密度で配置された微小電極(Microelectrode Array; MEA)が、細胞の活動にともなうイオンの流出入から発生する電位を計測、信号処理して、画像データとして出力します。薬などの化合物が細胞に与える影響や細胞間の情報伝搬過程を画像で確認することができます。
  • HD250603_lo-03.jpgソニーが開発中のCMOS-MEAは、電極間のピッチを縮小することで、小型ながら1チップあたり約23.7万個と高密度な電極配置を実現しています。また、同社のイメージセンサー開発で培ってきた高速A/D変換技術や高速インターフェス技術により、全電極のデータを一度に読み出すことが可能です。
  • ソニーと東北工大は共同研究を通じて、このCMOS-MEAにより、従来技術では困難だった画像による高精細な細胞モニタリングと、一細胞レベルでのデータ解析が可能になることを明らかにしました。
    そして、創薬のみならず生物工学や、バイオメディカルサイエンス分野への応用、医学・薬学などの幅広い分野に応用できる可能性を示しました。
    本システムの開発においてもこの研究成果が生かされています。
*関連論文:
Ikuro Suzuki, Naoki Matsuda, Xiaobo Han, Shuhei Noji, Mikako Shibata, Nami Nagafuku, Yuto Ishibashi, Large-area field potential imaging having single neuron resolution using 236,880 electrodes CMOS-MEA technology
Advanced Science:https://advanced.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/advs.202207732;
DOI:https://doi.org/10.1002/advs.202207732  

N. Matsuda, N. Nagafuku, K. Matsuda, Y. Ishibashi, T. Taniguchi, Y. Matsushita, N. Miyamoto, T. Yoshinaga, I. Suzuki, Field potential Imaging in human iPSC- derived Cardiomyocytes using UHD-CMOS-MEA.
bioRxiv:https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2025.03.31.646249v1;
DOI:https://doi.org/10.1101/2025.03.31.646249

H. Takahashi, N. Matsuda, I. Suzuki, Analysis of β rhythm induction in acute brain slices using field potential imaging with ultra-high-density CMOS-based microelectrode array.
bioRxiv: https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2025.03.30.646248v1;
DOI:https://doi.org/10.1101/2025.03.30.646248

<システム開発および試験提供における各社の役割>
ソニー:CMOS-MEAセンサーの提供を含むハードウエア開発
SCREEN:細胞データの計測・解析に関するソフトウエア開発、システムの試験提供窓口
VirtoVo:本システムを利用した受託試験サービス提供、システム導入における培養・解析に関するコンサルティング提供、新たな活用用途および解析技術の開発

本件についてのお問い合わせ先

ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社 広報課
semicon.press@sony.com

株式会社SCREENホールディングス コーポレートコミュニケーション室 広報部
nr-info@screen.co.jp

株式会社 VitroVo
contact@vitrovo.co.jp

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