Doc. No.: HD190719

株式会社SCREENホールディングスはこのほど、臓器灌流(かんりゅう)システムの実用化に向けた研究開発の一環として、慶應義塾大学医学部 臓器再生医学寄付講座(以下、慶応大学)と、臓器を灌流※1させながら血管吻合する移植技術をサポートする「灌流移植用カニューレ※2」、および移植時に臓器の温度上昇を抑制することを可能とする「遮熱バッグ」を共同開発しました。

臓器灌流システム
灌流移植用カニューレ
遮熱バッグ

近年、深刻な移植用臓器不足を解消するため、心停止や脳死状態のドナー臓器を機械灌流することで、移植可能な臓器として活用する試みが欧米諸国で始まっています。しかし、移植時に血流が途絶されるために起こる阻血※3や、低温状態のドナー臓器が、生体から受ける温度上昇によって臓器障害が急速に進行する温阻血※4などが原因で、心停止や脳死状態のドナー臓器の活用が進んでいませんでした。

当社は、2015年4月に国立研究開発法人理化学研究所(以下、理研)および株式会社オーガンテクノロジーズと臓器の長期保存および機能蘇生を可能にする臓器灌流システムの装置化に関する共同研究契約を締結。2016年からは理研の「産業界との融合的連携研究制度」のもと次世代臓器保存・蘇生システム開発チームを設置し、基本システムの構築に成功しました。また、2018年9月からは装置開発と並行して、本システムの実用化を目的に慶応大学との共同研究を開始。このたび、本システムを用いて臓器を灌流させながら血管吻合するための「灌流移植用カニューレ」を作製することで、阻血させることなく移植が可能な技術をサポートするとともに、移植時に温阻血の原因となる臓器の温度上昇を抑制する「遮熱バッグ」を開発しました。いずれの製品も世界中で臓器不足に悩む臨床現場で一刻も早く利用可能となるよう、移植専門誌の「Transplantation Direct」および「Transplantation Proceedings」に報告し、掲載されました。

当社は、今後も慶応大学との共同開発を通じて、臓器灌流システムの早期実用化を目指すとともに、移植医療、ならびに再生医療分野への研究開発および事業展開を通じて同分野の発展に貢献していきます。

■ 慶應義塾大学医学部 臓器再生医学寄付講座 小林 英司 特任教授のコメント

ものづくりの現場と医療の現場を結び付けた努力の成果が、専門誌に公開されました。株式会社SCREENホールディングスが持つ潜在的シーズを生かし、最先端医療の現場で使えるデバイス作りを産学連携で進めていきます。

■ 灌流移植用カニューレ

論文: Novel Triangular Tube for Ischemia-free Organ Transplantation.
Kobayashi E, Yoshimoto S. Transplant Direct. 2019 Mar 4; 5(4): e435.
Continuous Resuscitation for Porcine Liver Transplantation From Donor After Cardiac Death.
Yoshimoto S, Torai S, Yoshioka M, Nadahara S, Kobayashi E. Transplantation proceedings.
2019 Jun;51(5):1463-1467.

■ 遮熱バッグ

論文:Intra-abdominal Cooling System for the Transplanted Kidney.
Kobayashi E, Torai S. Transplant Direct. 2019 Mar 18; 5(4): e438.
Reduction of Warm Ischemia Using a Thermal Barrier Bag in Kidney Transplantation: Study in a Pig Model.
Torai S, Yoshimoto S, Yoshioka M, Nadahara S, Kobayashi E. Transplantation proceedings.
2019 June, 51(5):1442-1450.

※1 灌流:体内または臓器・組織・細胞に薬液などが入った液体を流し込むこと
※2 カニューレ:血管内などに挿入し、薬液の注入や体液を排出する場合などに用いるパイプ状の医療器具
※3 阻血:心停止や血管の閉塞(へいそく)によって臓器に血液が送られなくなった状態
※4 温阻血:とくに体温の状態で阻血が起こると細胞の代謝が行われているにも関わらず、酸素や栄養が補給されないため細胞が死滅する状態