Page2013展のデジタルワークフロー・ソリューションZONEでの無料セミナー「刷れてナンボ! 出力環境に依存しないデータ制作と出力の心得」の内容について、主なポイントをご紹介致します。
関連する出力の手引きWebの記事へのリンクも掲載していますので、併せてご参照下さい。
■はじめに
制作から最終の印刷までの出力環境はさまざまです。
どんなデザインも正しく印刷できて始めて商品になります。
正しく刷れてナンボ、とはそういう意味です。
出力環境が異なる事で、思わしくない結果になる、制作の意図が反映できない主な5つの原因について、解説します。
■オーバープリント
オーバープリントは、昔のオーバープリントプレビューがない時代と、現在のRIPでは若干解釈が異なる場合があります。
出力環境の違いで、出力が異なる原因について理解しましょう。
例えば、DeviceCMYKのグラデーションや画像に対するオーバープリントは、Illustrator 8時代以前では、可能な限りノセ表現される様にRIP側で実装されていましたが、現在のAdobe PDF Print EngineではPDFの規格に従いノセにはなりません。
2010年01月13日|Adobe PDF Print Engineでのオーバープリント(1) - 概要|
しかし、Adobe CS3以降ではグラデーションや画像に対してオーバープリント指定された場合、ノセにならないDeviceCMYKでは記述せず、ノセになるDeviceNで記述することで、ユーザーの期待=オーバープリントプレビューと実際の出力を一致させる様に動作します。
Adobe CS3以降では、この様にユーザーの期待とオーバープリントプレビューと最終出力を一致させるためのさまざまな工夫がされており、出力環境が、従来の仕様でも、PDFの規格通りでも同じ結果を得ることができます。
ここでスキップされたバージョンはオーバープリントプレビューと結果が一致しなかったり、きっついバグがあるので避けましょう…だからと言って「以前の形式」での保存もオススメできません。
2010年02月03日|Adobe PDF Print Engineでのオーバープリント(3) - DTPアプリケーションの挙動|
そして、今回は入稿の仕様書、指示書などに「ノセ活き」というチェックボックスを新たに設けることをご提案します。
「ノセ活き」を指定すると言うことは、データ上のオーバープリント指定に責任を持つということです。しかし、この設定を使う事でさまざまなトラブルを未然に防ぐことができます。
この後で、このチェックがどの様に効くか説明していきます。
移行を少しでも進めるためには、良くも悪くもチェックを外す=「従来通り」という選択肢を残すことも重要ですよね。できる仕事からコツコツと。
ただ、「従来通り」はその「従来」が各社各様なので、まさに出力環境に依存する運用になります。
2010年01月13日|Adobe PDF Print Engineでのオーバープリント(1) - 概要|
2010年01月15日|Adobe PDF Print Engineでのオーバープリント(2) - 技術詳細|
2010年02月03日|Adobe PDF Print Engineでのオーバープリント(3) - DTPアプリケーションの挙動|
2010年02月24日|Adobe PDF Print Engineでのオーバープリント(4) - 覚えておくべき事|
2011年04月15日|Adobe PDF Print Engineでのオーバープリント(5) - 理論通りにならない事例|
2011年04月19日|Adobe PDF Print Engineでのオーバープリント(6) - 番外編:DeviceGray|
■透明効果
Adobe PDF Print Engineは透明の処理が得意なRIPです。しかし、透明の演算が、そうでないオブジェクトの演算と比べると遙かに複雑である事には変わりがありません。透明が複雑に関係することで、RIPの性能によっては正しく演算できなかったり、エラー終了してしまう可能性があります。
不必要な透明効果はできるだけ使わない方が、パフォーマンスも良く、軽く安定したデータになります。
●Photoshopのレイヤー問題
Photoshopのレイヤーメニューで「背景」ではなく「レイヤー」と記載された場合、そのデータは透明オブジェクトとして認識されます。いわゆる透明度切り抜きなどで必要なケースを除いて、切り抜く必要のないデータはレイヤーを統合して「背景」にすることで、軽いデータになります。
2009年04月28日|RIPのメモリ消費量を少なくする編集|
2009年05月13日|RIPのメモリ消費量を少なくする編集(2)|
●画像の半調に透明、ノセの代わりに乗算
画像を薄くするためだけに透明効果を効かせたり、オーバープリントの代わりに乗算透明を効かせるケースについても同じ事が言えます。必要性のないところ、他の指示で同様の効果が得られる場合は、透明の使用を減らす工夫を行う事が大切です。
0%の版を透過させるだけのオーバープリントと乗算透明ではその演算の複雑さは全く異なります。
印刷側でオーバープリントが無視されるから乗算透明を使うのが、今までの自衛策だったかも知れませんが、オーバープリントを活かして欲しい時は、その意思を伝える事で正しく処理が出来ます。それが「ノセ活き」です。
●透明の描画モード+印刷時に特色の疑似色化
次は、RIP演算時に特色の疑似色化を行う事で発生する、透明の描画モードへの影響です。上記と同様に出力不正になっています。
さらに自動墨ノセも設定されていると、より多くの透明効果が不正になってしまいます。
(これら事例は、色値やカラースペースなどによって別の結果になる可能性もあります)
透明の描画モードを変更する場合は、自動墨ノセや特色の疑似色化などに注意して「ノセ活き」で処理すべきです。
●印刷時の自動墨ノセ+カラーマネージメント
全く透明が使われていないのに、印刷側で自動墨ノセとカラーマネージメントを行った場合に、RIP処理としては透明として処理される事例です。
カラーマネージメントは関係ないよ、と思われるかも知れませんが、カラーのデータをグレー化するだけでもカラーマネージメントです。
●アピアランスの影響
アピアランスを巧みに使われたデザインで、アウトライン表示では文字しか見えませんが、PDFのデータ上では非常にたくさんのオブジェクトで構成されています。
もちろん、このデータをそのままRIP演算すれば問題なく処理できます。データには問題ありません。
…というか、少ないオブジェクトでリッチなデザインができる、とても良くできたサンプルだと思います。
データご提供:川端 亜衣さま(イラレラボ)さま
カワココさんありがとうございます!
この様に良く出来たデータも、少し間違うとトラブルの原因になる事があります。
K=100%が使われたデータの場合に、印刷側で、自動墨ノセとカラーマネージメント(インキセービングやグレー化などを含む)を同時に行うときには注意が必要です。
本来、0%の版は下部を透過するというオーバープリントも、カラーマネージメントの影響で正確な0%でなくなり、そのまま演算すると全く透過しなくなります。しかし、カラーマネージメントを効かせた事で、ノセの表現が変わってはいけないので、RIP内部ではこの様な場合は透明として合成し、ノセの再現をシミュレーションします。
ここで、アピアランスなどで多数に重ねられたK=100%のオブジェクトがあると、自動墨ノセの影響でオーバープリントが設定され、グレー化などを行う事で、非常に複雑な透明合成が行われる事になります。
この様な処理の場合、処理が遅くなるだけでなく、複雑すぎてエラー終了することもあります。
これも「ノセ活き」の活用で防ぐ事のできるトラブルです。
■ストローク処理
ストロークは出力環境のちょっとした違いから、出力時の大きな違いになる事の多い処理です。
しかし、データ制作時に注意するだけで出力環境への依存を少なくする事ができます。
ポイントはマイター処理と破線処理です。
どちらも僅かな演算誤差に起因しているので、多少の演算誤差があっても間違いなく処理できる様な対策が重要です。
●マイター処理
マイター処理のポイントは線のパレット内で設定できる「比率」です。
デザインとしてバクダンを用いる場合によく見られます。
確実に尖らせたい場合は「比率」を大きめにします。
線幅を大きくして文字を太くする場合には「比率」を小さめにします。
バランス崩れるから、太い書体を使うのがいいのですが…
●破線処理
破線の差違は、長さを調整するか、図形化することで回避できます。
■出力解像度
出力解像度に依存する例として、ライブトレースで細かすぎる図形ができ、それを縮小は位置されると、無意識のうちに複雑な処理になり、種々の不具合の原因になります。
ライブトレースの設定パラメータについては、出力の手引きの記事に詳しく説明してあるので、詳細についてはそちらを参照してください。
トレースを単純化した場合、アンカー数も少なくなり、その後の色々な編集にも出力にも強いデータになります。
単純化の処理が、実際の出力結果で目に見える様な事は、よほど極端なことをしない限り、ない…と思います。
2012年11月13日|ライブトレースでは「お掃除」を忘れずに|
■RIPによる違い
Adobe PDF Print Engineが採用されているからと言って、出力依存性がなくなる、つまりどこでも同じ出力が得られる訳ではありません。
採用されているビルト、内部設定、各社独自の改善などで無視できない程の出力の差が出ることがあります。
大切なことは、それらの技術情報の収集と回避策を知っていることです。
当社では色々なケースで情報公開を行っており、同時に独自改善で可能な限り早く解決できる様な取り組みを行っています。
この部分、セミナーではもっとナマナマしい事例(そして当社が独自で改善している例)も併せて紹介していますので、機会あればぜひ…
このトラブル事例が表に書いてある珍しいパンフレット、入手する機会があれば、忘れずに裏面も見て下さいね!
【1】InDesignCS2~CS4での合成フォントの問題
2009年04月23日|InDesignCS2~CS4での合成フォントの問題|
2009年05月22日|InDesignCS2~CS4での合成フォントの問題(Adobe情報)|
【2】縦書き文字に透明効果で文字が欠ける問題
2009年07月09日|縦書き文字に透明効果で文字が欠ける問題|
2009年07月15日|縦書き文字に透明効果で文字が欠ける問題(2) - Adobe情報|
2009年07月31日|縦書き文字に透明効果で文字が欠ける問題 (3) - 注意事項|
2010年05月28日|縦書き文字に透明効果で文字が欠ける問題 (4) - CS5で修正|
【3】透明の変換用カラースペースの間違いによる段差
2008年10月31日|AdobeCS系のカラー設定と透明効果|
2009年01月29日|AdobeCS系のカラー設定と透明効果(つづき)|