これから3回に分けて本邦古今の組版,書物を種々ご紹介する予定です。よろしくお付合いのほどを願います。
 第1回は明治初年までを対象と致しまして,図書研究についての基本語彙の解説と普段あまりお目にかかれない本邦印刷史の基本資料のご紹介を中心に進めてまいりたいと存じます。
   
   
     

   図書研究の世界には特有の術語が成立しています。術語であるが故に,甲であって乙ではないと,資料情況を明確に記述することが,これによって可能となります。
 まず和本の判型。江戸本で一番普通の大きさのものは天地約19センチ,左右約13センチくらいで,この大きさのものを中本〈ちゅうほん〉と呼びます。中本より一廻り大きい判型,天地約24センチ,左右17センチ,これを半紙本と呼びます。この2つが一番多いんですけど,さらに中本より小さいもの,これを小本〈こほん〉とか袖珍〈しゅうちん〉本と呼びます。また,半紙本よりも大きな本は美濃紙を二つ折りにしたもので,天地約27センチ,左右約19センチ,この判型の本を大本〈おおほん〉や美濃本と呼びます。また横長の本を横本といいます。
 和本の表紙に貼附され図書の題名を記した紙片,これを題簽〈だいせん〉と呼びます。中には大きくて絵の入っているものもあり,これを絵題簽と呼びます。明治期,石版印刷のカラー画像を表紙に配した本が多く作られましたが,これは絵題簽の嫡流であったと言えるかもしれません。
 表紙をめくりますと,今日言うところの「表二」の箇所,多くは色紙に,書物のタイトル,蔵版者名,刊行年月などが印刷されています。この部分を見返しといいます。ちなみに図1の『かな手紙の文』の見返しは赤い紙に刷られています。また表紙をくるむ外袋が付けられることがありましたが,その外袋には見返しと同じ印刷が施されることが多かったと思われます。外袋付で残っている江戸本は稀です。
     
★図1
題簽の貼られた表紙(右)と見返し(左)。
見返しには色紙をつかうことが多い。この場合は赤。『かな手紙の文』辰文館,大正4(1915)年6月。半紙本。図示の部分は整版。
 
     
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