漢文は楷書(+片仮名),物語などは草書+平仮名という具合に書物の性格,記事の性格により用いられる文字自体が劃然と分たれていたことがお分りになろうかと思います。〔謡抄〕第一冊『高砂』では謡の部分は草書+平仮名,説明部分は楷書+片仮名となっていますね。『新刊吾妻鏡』でも書簡・和歌などが草書+平仮名となっています。このように嘗ては書体は書物や記事のジャンルに直結していたわけです。そうした意識は活版本が一般化した明治以降にも引継がれ,謡本や浄瑠璃本のように,結局活版印刷になじまなかったジャンルもあります[★図18]。
     
★図18
観世流改訂謡本『藤戸』……四つ目の線装,袋綴じに整版。観世流改訂本刊行会,昭和12(1937)年2月。
 
     
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