★図10…藤原太一(大阪広告協会編『大阪広告人名鑑』大阪広告協会、1933年より)

  川畑▲ さて、つぎの藤原太一[★図10]の『図案化せる実用文字』(1925年)に移りましょう。
1920年代半ば以降、描き文字を一頁にたくさん詰め込んだ描き文字集が数多く出版されるようになりますが、その定型を示したのがこの『図案化せる実用文字』です。
 藤原太一は、1918年に仁丹本舗の広告部に入社、26年2月からはベルベット石、31年7月からはカガシ化粧品(丸善商店化粧品部)で活躍した大阪のデザイナーですね。これからみていく『図案化せる実用文字』のほかに、『絵を配した図案文字』[★図11](1926年)という描き文字集もあります。
 藤原の特徴は、造形的な完成度に力点をおいた点です。自身が目指す方向性について、彼は『図案化せる実用文字』の序文にこう著わしています。
   
文字を図案する――これも一つの芸術であると云いたい。(中略)詩歌や絵画に於て、僅か一点の無駄な言葉、僅かひと筆の不要な線があってはならないように、其れは文字を図案する上に於ても全く同様のことである。
   
     彼の方向性は“ロゴタイプ派”といってもいいでしょう。あとで紹介する矢島周一が描き文字を一揃えのフォントとして捉えた、いわば“書体開発派” ですから、ふたりは対照的な存在ですね。
     
★図11-1…藤原太一『図案化せる実用文字』(太鐙閣、1925年)  
★図11-2…藤原太一『図案化せる実用文字』(太鐙閣、1925年)より  
     
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