さて、ここではデコレーションという表現をデザインの対峙として使用していますが、デコレーション処理が悪いわけではないのです。デザイン(設計)に対してのデコレーション(装飾)という言葉のニュアンスで、上っ面だけの装飾処理はデザインにはならないという私の考え方です。そのため、全体のイメージアップにつながるデコレーション処理であれば、大いに推奨されるべきテクニックであり作業だと感じています。
 ですから、デコレーションであるかデザインであるかは、本当はとても判断が難しい問題なのです。作り上げるデザインの内容により、簡単にそれらがひっくり返ることも少なくありません。目立つように作り上げたつもりでも、それらが店頭に並んだ時、インパクトは皆無に等しかったということを何度も経験したことがあります。
 制作過程でのシミュレーションも、モニター上の確認だけでは最適であるかの判断は付きません。例えば、パッケージデザインなどの場合はいくつかに絞り込んだデザインのダミーを沢山作り、マスで確認してみたり、競合他社製品に混ぜた時の視覚効果を確認したりします。まさに、複合的要素でデザインを決定しているわけです。雑誌などでは表紙がこれに相当する部分でしょう。いわずもがな、TPOの見極めが大切ということになります。
 このように結論付けてしまうと、デザインはあまりにも曖昧だと思う反面、封建的で既成概念の上に成り立っているつかみ所のない作業だと勘違いする方も出てくるかもしれません。確かに、定番という括りでの作法とでも言うべきデザインの方向性というものは存在しています。仕様書が変更になると、デザインが簡単にひっくり返ってしまうこともあります。
 しかし、いつの時代も既成概念を壊す、あるいは挑戦するようなデザインが次の時代を引っ張ってきていました。つまり、いつひっくり返されてもいいように、常に対峙するイメージを両方考えつつデザインを行なう姿勢が大切なように感じています。
 そして、それらが生まれるきっかけは、やはり定番デザインをしっかりマスターしている上で発生するのではないでしょうか。逆転の発想やタブーに挑戦という行為は、十分に既成概念を理解していないと生まれないからです。
 なぜなら、デコレーションとデザインは視点を変えると逆転しかねない背中合わせの関係だからです。そして、一見地味に見える文字組みデザインも、実は大変エキサイティングでインパクトのあるデザイン展開を可能にしていることを、もっと多くのデザイナーが意識するべきでしょう。
     
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◆編集=柴田忠男
◆デザイン=向井裕一(glyph)
     
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