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明治45年刊『改正三号明朝活字書体見本 全』に収録の「太平仮名」を覆刻したものです(図8)。一号仮名もそうですが平仮名は細仮名と太仮名の2種を用意していますが、片仮名は1種しかありません。それも平仮名にくらべてだいぶ小さい。片仮名が大きくなったのは、片仮名で外国語の固有名詞を組むようになった近年のことではないでしょうか。 この書体の制作年代と彫り師は不明です。初号仮名と比較してみると脈絡にいくぶんの整理が見られますが、書風は初号仮名と同じですので、彫り師は同じだろうと思われます。一号太仮名はもしかすると別の彫り師の仕事かもしれません。ゆったりとした運筆、正方形を意識した布字(ふじ)はそれほど厳格ではなく、仮名固有の字形を生かしているように思え、平仮名の美しさを感じさせます。灰汁(あく)の強さは抑えられてはいますが、それでも個性的な表情は失われてはいません。明治36年刊の築地活版『活版見本』にはこの書風の太仮名が四号と五号にも見られます。 やや古典的な印象を与える書体ですので、活字由来の漢字書体と組み合わせるのが無難ですが、それでは面白みがないと思われる方はもっと整理定型化を進めた漢字書体と組み合わせて、新しい方向性を見いだしたらいかがでしょう。またゴシックと組み合わせるアンチック体としてこの書体をというのも面白いのではないでしょうか。このくらい品質の高い仮名書体であれば、どのような場面でも、どのような使いかたをしても個性を充分に発揮するはずです。 |
図8 アンチック体 | ||||||
築地体初号仮名(PDF: 604KB) |
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■これまでの連載 →第1回 上海から明朝体活字がやってきた →第2回 四角のなかに押し込めること →第3回 ゴマンとある漢字 →第4回 長嶋茂雄の背番号は3 では「王」の背番号は |
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