半導体の回路を焼き付ける工程は「露光工程」と呼ばれる
半導体の回路は大変微細なので、ウェーハ全面に一括露光は難しい。数チップずつ分けて繰り返し露光する。つまり「ステップ&リピート露光」をするわけである。そのため、ここで使われる装置は「ステッパ」と呼ばれる。
数チップ分ずつ分けて露光する理由は、大きいエリアよりも小さなエリアのほうが端のほうまで精密に露光できるからである。
ステッパで露光するときの光源には紫外線ランプを使うが、その紫外線にはいくつかの種類がある。70年台〜80 年台前半はg 線と呼ばれる波長の長い紫外線が主流だった。80 年台中盤以降は回路の幅がg線の光の波長の幅よりも小さくなったので、より波長の短いi線の紫外線ランプが使われるようになった。90 年台後半になるとi線も限界に近づき、さらに波長の短い遠紫外線(業界ではDeep UV またはDUV という)の光源が使われている。
数チップ分ずつ分けて露光する理由は、大きいエリアよりも小さなエリアのほうが端のほうまで精密に露光できるからである。
ひとことに遠紫外線といっても、何種類もの光源がある。その光源、波長、対応できる露光線幅は右表のとおり。90 年代後半から2000 年代初めは波長248nm(= 0.248 μ m)のKrF(クリプトン・フッ素)光源が量産ラインの最先端だった。また、マスクなどに工夫を施すことでこのKrF 露光技術を延命させると、光源の波長の半分にあたる0.13 μ m の回路も露光できる(一部には0.10 μ m が可能との論文もあり)とされている。さらに、KrF の次の世代の光源としては波長が193nm(0.193 μ m)のArF(アルゴン・フッ素)光源を搭載したステッパが量産ラインに導入されている。
数チップ分ずつ分けて露光する理由は、大きいエリアよりも小さなエリアのほうが端のほうまで精密に露光できるからである。
ところで、g線やi線の時代の光源は十分な光の強度があったのだが、KrF の光源は少しばかり弱い。ArF の場合はさらに弱くなる。そこで「化学増幅型レジスト」というのが現れた。
化学増幅型レジストとは、紫外線だけでなく熱にもよく反応する感光材料である。ステッパでとりあえず露光したあと、この化学増幅型レジストを加熱すれば、十分な光で露光したのと同じ処理結果が得られるのである。
なお、このレジストを加熱する処理は、スピンコータに搭載されているホットプレートで行う。ただし、化学増幅型レジストは温度に大変敏感なので、ホットプレートの温度精度は高くする必要がある。
ステッパは2008 年の時点で1 台数億円から数十億円もする大変高価な装置なので、半導体の微細化が進んだからといってすぐに買い換えはできない。そこで既存の露光機の延命を図る工夫が以前から普及している。その代表例としては、「位相シフトマスク」の使用がある。これは、光学系や装置を代えるのではなく半導体回路の原版(=マスク)のほうに工夫を施して、光源の波長より細い回路の露光を可能にしたものである。
また、これまでのステッパはたくさん(数十枚)のレンズを組み合わせて平行な光が出せる光学系を使っていたが、レンズの性能にも限界というものがあるため、スキャナ方式の露光を使う動きも普及してきた。原理的には、同じ光源でもスキャナのほうがステッパよりも均一に回路を露光できる。
現在の最先端の半導体量産ラインで使われているArF 露光装置の次の世代に使う露光機としては、波長157nm の光源を使うF2露光装置(フッ素光源の露光機)が検討された。
しかし、2003 年に既存のArF 露光装置を延命させることのできる「液浸リソグラフィ」という技術が本命視されるようになってきた。これはレンズとウェーハの間に液体を介することで解像度を上げる技術である。たとえば水の中を通過する光の屈折率は1.44 なので、ウェーハとレンズの間に水を入れれば、同じ光源でも解像度は1.44倍高くなる。この技術を使えばArF 露光装置で45nm(0.045 μ m)の回路も量産できるとされ、場合によっては32nm(0.032 μ m)以下も可能とするレポートも出ている。この液浸技術は2007 年頃から半導体の量産ラインへの導入が始まってきた。
一方、45nm プロセスにもArF 露光装置の延命にメドがついたことから、当初その世代向けに検討されていたF2光源(波長157nm)の露光装置は出番がなくなった。
そして現在、ArF 露光装置の延命のさらに先の世代で使う露光装置としては、波長がわずか13.5nm のEUV(極紫外線)光源を搭載した装置が候補となっている。