次に仕入れたウェーハをきれいに洗って、汚れを取り除く。ただし汚れといってもごくわずかなもので、目には見えない。(目で見てわかるような汚れがあるウェーハは商品にならない!)取り除く汚れの種類は以下のとおり。
ウェーハを梱包から取り出したり運んだりするとき工場の外気などから付着したゴミ。サイズは最大で数μ m、最小では0.1 μ m 以下。なお、この小さなごみのことを半導体業界では一般に「パーティクル」と呼んでいる。
蒸発した汗に含まれるナトリウム分子や、工場内で使っている薬液に含まれる微量な重金属原子など。
人のフケや垢に含まれる炭素や工場内で使う薬液に含まれる微量の炭素分子など。また、純水配管の中にバクテリアがあれば、それも有機汚染のひとつになる。
人の汗に含まれる油分など。
ウェーハが大気に触れると、その表面が大気中の酸素と結合して10 〜20nm(10 万分の1 〜2mm)の酸化膜ができる。しかしこの酸化膜には大気中の不純物も含まれるため、汚染のひとつという扱いになる。
これらの汚染を取り除く洗浄装置として最も普及しているのはウェットステーション(ウェットベンチとかオートフードと呼ぶ会社もある)である。ウェットステーションとは薬液の入った槽や純水の入った槽が並んだ装置で、これらの槽の中に多数のウェーハ(通常は50 枚)をまとめて浸して、汚染物を溶かしたり中和したり洗い流したりしたあと、乾燥させる。
通常のウェットステーションは1 つの槽で使える薬液が1 種類なので、複数の汚染を取り除くときにはたくさんの薬液槽が並ぶ。また、異なる種類の薬液が混じるのを防ぐため、槽の編成は「薬液A -純水-薬液B -純水-薬液C -純水」といったかたちになる。
ウェットステーションのラインの最後にはウェーハを乾燥させるユニットがつく。乾燥ユニットには洗濯機の脱水と同じように回転の遠心力で脱水をする「スピンドライヤ」と、アルコールの蒸発力で水分をいっしょに蒸発させる「IPA ベーパドライヤ」がある。ここでいうIPA とは「イソプロピルアルコール」の略称、ベーパは英語で「蒸気」という意味で、現在はこの方法が主流となっている。
なお、スピンドライヤの利点は乾燥時間が短いということである。ただし、回転中のウェーハと空気の摩擦で静電気が起きたり、脱水のあとウェーハの上に水模様(業界用語ではウォーターマーク)のシリコンの錆びが発生しやすいという欠点もある。一方、IPA は静電気やウォーターマークの心配がない代わりに、アルコールガスが引火して火災を起こすリスクがあるため、装置の設計や運用には十分な注意が必要である。
ひとことに洗浄といってもレベルは様々である。そして、特に高い洗浄度が求められる成膜工程直前の洗浄などでは、前述した「多槽型のウェットステーション」ではなく、「ワンバス型ウェットステーション」が使われる。
ワンバス型ウェットステーションとは、1 つの槽で薬液洗浄と純水による水洗の両方を行う装置である。通常のウェットステーションではウェーハを槽と槽の間で搬送するとき、その表面が空気中の微量な不純物に触れてかすかに汚染されるリスクがある。しかしワンバス型ウェットステーションは右図のようにまずウェーハを薬液で洗浄したあと、その薬液を純水で押し出してから水洗を行うという方法をとっているので、ウェーハが大気に触れない。
ウェットステーションのラインの最後にはウェーハを乾燥させるユニットがつく。乾燥ユニットには洗濯機の脱水と同じように回転の遠心力で脱水をする「スピンドライヤ」と、アルコールの蒸発力で水分をいっしょに蒸発させる「IPA ベーパドライヤ」がある。ここでいうIPA とは「イソプロピルアルコール」の略称、ベーパは英語で「蒸気」という意味で、現在はこの方法が主流となっている。
また、こうした厳しい洗浄の後の乾燥工程では、ウェーハが大気に触れて汚染されるのを防ぐため、窒素ガスの中で乾燥させるという方法も普及している。
一度に多数のウェーハをまとめて洗浄するウェットステーションのような装置を、業界では「バッチ洗浄装置」という。これに対してウェーハを1枚ずつ洗浄する装置は「枚葉洗浄装置」と呼ばれている。
バッチ洗浄装置の利点は、生産性が高く1 枚あたりのウェーハの処理コストが安いことである。一方枚葉洗浄装置の特長は多品種少量生産に向いていることである。また、洗浄の中にはウェーハを1 枚づつでないと最適に処理できない性格の工程もある。その結果、実際の半導体工場ではコストと目的に合わせてバッチ洗浄と枚葉洗浄を使い分けるのが一般的である。
枚葉洗浄装置として最も一般的なのは「スピンプロセッサ」である。これは回転しているウェーハに薬液や純水をスプレイして洗浄を行う装置である。ウェットステーションと同様に様々な薬液が使えることから、その用途は広い。
バッチ洗浄にせよ枚葉洗浄にせよ、これまでに使われてきた洗浄装置は基本的に「酸などの薬液や純水でウェーハを洗浄する」という方法をとってきた。こうした洗浄の基礎は1970 年頃米RCA社が開発したもので、一般には「RCA 洗浄技術」と呼ばれている。しかしこの洗浄方法は環境に対する負荷が大きいことから、半導体業界には新たな洗浄技術を開発する動きも盛んに行われている。
現在検討されている新洗浄技術としては、「機能水洗浄」や「超臨界水洗浄」などがある。「機能水洗浄」とは酸ではなくオゾンなどを含んだ純水でウェーハを洗浄する技術である。これが普及すれば、毒性や腐食性の強い廃液が減る。一方、「超臨界水洗浄」とは、二酸化炭素などを加えて表面張力を極限まで低くした純水と薬品をセットにした洗浄技術である。半導体回路の微細化が進むと、水の表面張力が障害になって回路の隅々まで十分に洗浄できなくなるという問題がある。それを解決するのが、表面張力のない超臨界水なのである。ただし、機能水洗浄も超臨界水洗浄もまだ多くの技術的課題とコスト面の問題をもっており、本格的な実用化は先のことと見られている。
これまでに述べた洗浄は薬液や純水といった液体を使うもので、これらはまとめて「ウェット洗浄」と呼ばれる。これに対してガスで洗浄を行う「ドライ洗浄」というものも存在する。
ただし、現在使われている洗浄のほぼ99%はウェット洗浄である。また、数少ない実用レベルのドライ洗浄装置としては、フッ酸の蒸気によってウェーハの表面を洗浄する「気相洗浄装置」がある。これは自然酸化膜(ウェーハの表面が大気や水の中の酸素に触れて酸化することによりできる極めて薄い膜)の除去に限定した洗浄装置である。自然酸化膜はフッ酸ガスとの反応で数種類の気体の物質に変わるため、液体を使わずに除去できる。