古くから、良いものは外国の文化でもどんどん自由に取り入れ、しかも独自に料理しながら新しい文化を創り出すことに長けている日本人が、育て続けてきた組版文化をデザイナーはないがしろにしてはいけません。たとえば、私は一般的にかなり露出度の高い某書体を一度も仕事で使ったことがありません。理由は単純で、美しいとは一度も感じたことがないからです。いや、わざわざこの書体を使う必然性はどこにあるのかとさえ感じています。デザイナーにとってそんなこだわりは大切です。
 論理的にではなく情緒的に行動する、世界の中の異端児である日本人の独自性は、国民すべてがデザイナーであると言っても過言ではないと感じています。だからこそ、プロへの要求は諸外国よりも高くなくてはなりません。
 それは、日本語そのものが漢字、平仮名、カタカナ、欧文などが混然となっている複雑な仕組みだからです。漢字はきれいだけど仮名が不自然であったり、英数字のベースラインが和文と合っていない書体ばかり見続けていると、かなりストレスが溜まります。DTPが始まった頃は英数字が一回り小さかったり、ベースラインが下にずれているデザインのものが多く、調整にかなり苦労しました。
 幸いPageMaker 5.0からは今のInDesignのような合成フォント設定が可能でしたので、小さい欧文を大きくしたりするなど、本文に対してもある程度の調整が可能になりましたが、余計な手間であったのは確かです。ついつい調整をやりすぎてしまうことも少なくありませんでした。このあたりは、どうしても個々のデザイナーの癖や経験値などに影響されてしまいます。また、どれだけ画面できれいに調整しても、OTF以前のOCFフォント時代では調整した結果がプリントアウトなどに思ったほど反映されていなかったことが多く、精度に限界があったように感じています。
   
   
【図02】游築五号仮名Std W3の横方向の空き(仮想ボディと外接矩形の横幅の間の空き)
 
仮想ボディ
空き
  外接矩形の横幅
   
【図03】游築五号仮名Std W3の縦方向の空き(仮想ボディと外接矩形の縦幅の間の空き)
 
仮想ボディ
外接矩形の縦幅
 
空き    
 
※仮想ボディと空きスペースについては視覚的なもので、実際のデータに基づいたものではありません。また、ゴシック系またはタイポス系の書体の場合は懐が広いので、これほど大きな違いが出ない場合があります。どちらにしても書体によってイメージは大きく異なります。
     
    123456789