ところで、現在のフォントは特殊な丸みを帯びた書体は例外として、基本的にはどのようなサイズに拡大しても【図03】のようにコーナー部分はシャープなイメージを常にキープしています。
ところが、写植時代は文字盤そのものがそれほど大きく作られていなかったことや、露光時間過多等により【図04】のように文字が太ってしまったり、露光不足により文字がグレーがかり、製版時に細くなってしまうということが日常茶飯事でした。テキストの部分的な直しで、指定した文字よりも細かったり太かったりして悩まされたことは数えきれません。そのため私はキャッチコピー程度であれば大きめに紙焼き*をしてからロットリング**やホワイト***で修正を行なっていました。
もちろん、優れたオペレーターに依頼すれば機械制御された処理のように、寸分の狂いもなく仕上げてくれましたが、そんなオペレーターは当然いつも指名されているので急ぎの仕事はまず絶望的でした。結果として、デザイン決定を早めにする必要に常に迫られていたわけです。このように、写植オペレーターのスケジユールに翻弄されていた当時のデザイナーは、今よりも余裕のない作業を繰り返していたわけです。
そんな昔話を思い浮かべていると、CTPが主流となった現在の印刷ワークフローでは、極細の文字や極太の文字をどのようにエフェクトして利用しても、常にシャープな同一結果をもたらしてくれるわけですから、微妙なウエイトが本当の意味で利用可能となったと言ってもいいでしょう。
例えば、写植時代には【図05】あたりの違いは、下手なオペレータに当たってしまうと、写植の仕上がり具合での許容範囲でしかありませんでした。特に小さい級数で指定した写植仕上がりについて、その違いはゼロと言っても過言ではなく、更に製版までに何度も繰り返されるフィルム撮りで、エッジは甘く書体のデザインは絶望的な結果になってしまうことは少なくありませんでした。

   
   
*紙焼き…トレスコープにて作成する、版下に貼り付ける印画紙のこと。手書き文字やイラストを指定サイズに縮小したりする場合に利用。アナログデザイン時代のデザイナーの必需品。

トレスコープ…簡易製版カメラのような機械で、白黒原稿をその場で印画紙に焼き付けることができた。実際には様々なメーカーで若干表現が違っていたが、トレスコープ、またはトレスコなどと略して使われることが多かった。

**ロットリング…ロットリング社のテクニカルペン。類似
品も含めたテクニカルペンの総称として広く使われていた。

***ホワイト処理…面相筆とポスターカラーで印画紙上の
余分な汚れ等を修正すること。
 
 
   
【図03】 【図04】 【図05】
 
◯チントマジック
文字のウエイトが大きくなると、文字そのものの表示面積が増大し、結果として文字全体のイメージが強調されてしまうために、小さいウエイトの状態とでは色調が異なって見えてしまいます。
例えば【図06】のように6つのウエイトのブロックがある場合、当然ながらW7のように太い文字の方が強く濃く見えてしまいます。もし、複数の極端なウェイトが混在するデザインを行なう場合は、【図07】のように太い文字の濃度を調整することで全体の調和を図ることも出来ます。色文字の場合も【図08】【図09】のように考え方は同一です。
     
  【図06】 【図07】 【図08】 【図09】
 
    上記、例文の書体は、漢字:ヒラギノ角ゴシック体、仮名:ヒラギノ角ゴAD仮名の各ウエイトを使用。
【図07】【図09】は色濃度をW2=100%、W3=94%、W4=88%、W5=82%、W6=76%、W7=70%に設定。
     
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