◆たとえば、ついつい目がいってしまう電車やバスの中吊り広告。これは見ず知らずの者同士が閉鎖された空間に押し込まれることにより、出来るだけ第三者と視線を交わらせたくないという心理的な部分を逆手に取った効果的なPOPというわけです。新聞や雑誌等を持ち合わせていればその魔力から逃れることも可能ですが、うかつにも無防備で乗車してしまうことがほとんどではないでしょうか。ですから、意味もなく読み続けてしまったということは誰にでも経験があることだと思います【図03】。
ここで重要なのは中吊り広告の内容は、なんとなく目がいってしまった乗客と、彼らの視線を釘付けにさせるための視覚的効果とキャッチコピーのインパクトとの絶妙な関係で成り立っている攻撃的なデザインであるという点です。
ですから、驚異的にタイトなレイアウトと超法規的とでもいえる文字組みが行われていてもOKというわけです。いや、文字組みというよりはロゴタイプの考え方に近いかもしれません。ですから、書籍の本文組みと比べたら文字組みの考え方が異なるのは確かですが、書籍の本文は自発的に読もうとして購入した読者が読みやすい状態にデザインされていることに対し、中吊り広告は注目を集め、補足的な小さな文字も含めて本誌で更に続きを読みたくなるようなデザインに徹したキャッチコピーの集合体と言えるでしょう。思わせぶりのキャッチコピーも当然影響しています。
限られたスペースでも目立たなくてはならない、キャッチコピーが溢れてしまっている週刊誌等の中吊り広告では、無駄なスペースはひとつもありません。デザインとは空間をどれだけ上手に活用するかという側面をもっていますが、こと中吊り広告に関して、この法則はまったく当てはまりません。
動きのあるキャッチコピーなら、ひらがなやカタカナを小さくあるいは細く取り扱う、または漢字を大きく太く扱うといった抑揚処理を行なうことで、固定されたスペースであっても効果的なイメージを得ることが出来ます。
     
     
【図03】
ゴシップ記事的なキャッチコピーを、ダミーとして作成することが難しいので、随分おとなしいデザインサンプルとなってしまいました。
 
     
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