小野塚 SCREENは、150年以上の時代の変化にしなやかに対応した、素晴らしい歴史のある会社ですね。
創業以来、社会のトレンドや事業環境が変化する局面ごとに、既存の事業や技術の延長線上に安住せず、次の成長につながる道筋を見いだしてこられたと感じています。これまでの歩みを振り返り、どのような「勝ち筋」を見いだしてこられたのか、また、今後についてどのように考えておられるのかをお聞かせください。
サステナブル経営 ~SCREENのサステナビリティ戦略の目指す姿~
文中の肩書は、座談会当時のものです。本座談会は2026年3月11日に、京都市の当社本社で行われました。
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150年以上にわたり、時代の変化に向き合ってきたSCREEN。企業価値を支える「人」と「技術」を起点に、サステナブル経営の考え方やこれからの成長に向けた価値創造の姿を、社外有識者と当社社長・役員による対話を通じて描きます。
SCREENの成長を支えてきた「勝ち筋」と源泉
後藤 今から158年前の明治元年、印刷のベンチャーからスタートした当社は、そこで生み出した「技術」を、「人」が磨き、つなぎ、思考展開して社会に応用する中で、さまざまな事業を展開してきました。当社は、よく「技術のSCREEN」といわれますが、その技術を支えてきたのは「人」であり、事業経営の善しあしは「人」に宿ります。すなわち、人を育て、さまざまな展開にしっかりと準備することが、これからの「勝ち筋」につながると信じています。VUCAの時代と呼ばれる昨今、ビジネス環境はますます予測困難になっています。だからこそ、変化を読み取り、フレキシブルに対応できる人を育てることが必要で、そうした人が技術や企業文化などを伝承し、新しい当社をつくり上げていくと考えます。
井藤 SCREENが大事にしてきた「技術」と「人」は、いずれも非財務の無形資産であり、後藤社長から「人の育成を軸に事業経営を展開することが、SCREENの『勝ち筋』につながる」というお話を伺い、あらためて、SCREENにはサステナブル経営のDNAが元来備わっていたのだと感じました。
小野塚 私自身、これまで資本市場に関わる立場で、さまざまな方々と対話してきましたが、企業がステークホルダーの期待に応え、長期的な価値を提供し続けるには、経済的価値を追うだけでは不十分だと感じています。このあたりについては、どのような印象を持っておられますか?
後藤 企業価値を考える場合、もはや経済的指標を追いかけるだけでなく、どれだけ社会に貢献できるか、世の中を変えられるかが問われる時代になっていると感じます。例えば、環境負荷を低減した製品の提供などが、その一つです。ステークホルダーに対し、「SCREENは経済的価値だけでなく、非財務価値や社会的価値を大切に、具体的に、こんな取り組みも実行していますよ」「経済的価値と社会的価値の両方を高める“両輪の活動”を実践していますよ」ということを、お伝えしていきたいと考えています。
予測困難な時代におけるステークホルダーとの対話
小野塚 今のお話にもあったとおり、御社は外部環境が刻々と変わる中でも、「人」と「技術」が持続的な成長を支え続けると見ておられますが、この予測困難な中で未来を見据えようとするとき、何が重要になると捉えておられますか?
後藤 それは、会社として変化を読み取り、どれだけフレキシブルに対応できるかだと思います。そのためにも、変化を先読みし、AIやDXを適切に活用して、不測の事態に備えることが必要だと考えています。
小野塚 変化に向き合うためには、考えや取り組みを外部に発信し、対話していくことも重要だと感じます。
今回のような場もその一つですが、サステナビリティやESGは非財務情報であるが故に、内部と外部の情報の非対称性が大きい分野だと思います。そのため、投資家をはじめ、ステークホルダーからの非財務情報の開示要請も相応に高まってきています。御社は非財務関連の情報開示をどのようにお考えでしょうか?
後藤 先ほど小野塚さんからもお話がありましたように、投資家の皆さまとの対話の中で、非財務の情報への関心が高まっているように感じます。最近では、非財務情報の法定開示の動きが始まっていますが、それだけ企業価値を評価する上で、投資家の皆さまが非財務情報を重視されている証しだと思っています。当社としても、法令で求められる情報を適切に開示することはもちろんですが、それだけで十分だとは考えていません。
企業価値は中長期の視点が重要であり、その中で私は「仕事の成果は積分」だと考えています。ステークホルダーの皆さまが、当社が中長期的に取り組もうとしていることに対して、いかに「ワクワク感」を持っていただけるかにこだわり、私たちが中長期で目指している方向性が伝わるよう、ストーリー性を意識した情報発信を行っていきたいと思っています。
SCREENのサステナブル経営の現在地
小野塚 投資家が企業価値を判断する際、業績に加えて、その企業が社会にどのようにポジティブなインパクトを与えるかを重視すると考えています。この社会的インパクトを、御社はどのように見ておられますか?
井藤 社会課題の解決につながる、ワクワクするようなソリューションを提供できる会社こそが、投資家から評価されると思っています。その意味では、これからの展開において「社会的インパクト」の視点は、とても重要だと考えています。
小野塚 そうした社会的インパクトを生み出していくためには、限られた経営資源をどこに配分するかが重要になりますが、御社の場合、その中核に「人」があるように感じます。そこで、サステナブル経営を実行していく上で御社は、「人的資本」をどのように位置付け、具体的にどのような取り組みを進めておられるのでしょうか?
白石 人的資本経営は、私が本部長を務める人財戦略本部が担当していますが、その前提となる社員の健康づくり(健康経営)はサステナビリティ戦略本部が担当しており、役割を分担して取り組んでいます。社員が健康でなければ人的資本経営は成り立ちませんし、会社としてのサステナブルな成長も望めないという考えです。そうした前提があってこそ、エンゲージメントやWell-Beingなどの戦略が展開できると考えています。
小野塚 私も経済産業省が発行している「健康経営ガイドブック」の改訂委員をしていましたので、その考え方には心から賛同します。重要なのは、やはりトップのリーダーシップです。健康経営は単に人事マターではなく、トップとしての関わりが重要だとされています。後藤社長は、どのように関わっておられるのでしょうか?
後藤 私は、SCREENグループの健康経営の最高責任者を務めています。企業のパフォーマンスは社員が創り出すものですから、社員の皆さんが常に最高のパフォーマンスを発揮できるコンディションをいかに整えるかが、会社経営にとって非常に重要だと考えています。
例えば、当社は経済産業省の「健康経営優良法人認定制度」において、4年連続で「ホワイト500」の企業に、3年連続で「健康経営銘柄」に認定いただきました。また、2025年度から「サステナブル・アクションチャレンジ(サスチャレ!)」という、社員一人一人がサステナビリティへの理解を深め、主体的な行動を促すプログラムも実践しており、もちろん、この取り組みは健康増進も対象となります。私は社内にラジオ放送番組を持っているのですが、その番組の中でも社員の皆さんには、自分自身の健康と向き合うことや、健康増進諸施策への参加を呼びかけるようにしています。
井藤 今、後藤さんからお話がありましたとおり、当社では現在、社員一人一人が社会課題の解決や企業価値の担い手は自分自身だと捉え行動につなげる仕掛けとして、「サスチャレ!」を展開しています。初年度となった前期は、SCREENの社会的価値向上につながるアクションエントリーが、285件もありました。こういった意識と行動がSCREENグループの隅々にまで浸透するよう、今後も継続的に取り組んでいきたいと思っています。
白石 私としても、「サスチャレ!」を含め社員が本来持っているモチベーションを、組織としてどのように引き出し、力にしていくかが重要だと実感しています。
小野塚 視点を少し外に向けまして、社会が目まぐるしく変化する中、SCREENの主力事業である半導体業界は、変化の影響をとりわけ強く受けているのではないかと思います。立ち止まれば取り残され、市場からの退場を余儀なくされる今の局面で、どのような人が育ち、どのような人財の集団になるべきだとお考えでしょうか?
後藤 日々の仕事や生活の中で得られる「気付き(センシング能力)」を、自分事として行動に移すことが重要です。この「気付きと行動」を一体として鍛えることを意識し、人財戦略本部がさまざまなプログラムを用意してくれています。それらの中で、「Be a Solution Creator」のビジョンを掲げ、どのポジションでも、次のソリューションを自分で見つけ主体的に取り組める人財の集団になりたいと思っています。
白石 当社には、社員が自ら考え挑戦しようとする風土があります。好奇心旺盛な社員が多く、自分が思い付いたソリューションを実行したいと言ってきます。それを課長や部長が認めて、実際にやらせてあげる。そんな社風がベースとなり、今では「目標管理制度」を通じて、自分自身でアサインメントを設定してもらっています。
また、「Solution Creator」を目指すために5つの行動原則を設定し、人事評価基準に組み込みました。求めるレベル感を役職別に設定していますが、若い社員は高い能力を持つ人も多いので、「自分は標準レベルよりも2ノッチ上のSolution Creatorを目指します」ということもOKにしています。
アグレッシブさで企業価値を創造していく
小野塚 これまでのお話で、「仕事は積分」「フレキシビル」「ワクワク感」といったキーワードが出てきましたが、それらに加えて後藤社長は時折、「アグレッシブ」という言葉をお使いになります。御社における価値創造のメカニズムの中で、この「アグレッシブさ」の重要性をどのように捉えておられますか?
後藤 生き馬の目を抜くような私たちの業界では、勝ち続けなければ生き残れません。そのためにどれだけ価値を積み上げていくかが鍵であり、それを実践するときに、自らがアグレッシブに取り組まないといけません。
当社は「人と技術をつなぎ、未来をひらく」という存在意義を掲げていますが、「技術」と「技術」をつなぐことは比較的簡単ですが、「人」と「人」、そして「人」と「技術」をつなぐのは、非常に難しい。これらをどうやってつなぎ、企業価値を高めるかが重要です。私は、自分自身がやりたいことに情熱を持って取り組むアグレッシブさが重要で、その先に企業の価値創造のポイントがあると考えています。ですから社員の皆さんには、もう一段高いマインドセットをお願いしたいと思っています。
小野塚 ありがとうございます。
「アグレッシブ」という言葉には「スピード」も含まれていると思います。世界の一流企業に比べ、日本の企業はスピードが遅いという指摘もありますが、スピード感をどのように考えておられますか?
後藤 今は、社会の変化が非常に速くなっています。例えば速いエスカレーターでは、乗るのをためらっていると、素早く乗った人との差があっという間に開いてしまいます。AIは自らリスクを取れませんが、人は状況を見極めながら判断できます。明確に進むべき局面では迷わず踏み出し、判断が分かれる局面でも一歩踏み出せるかどうかが大事だと思っています。そういう「アグレッシブさ」と「経営のスピード感」が重要で、他社よりも一足先に動くことが結果として大きな差につながると感じています。
小野塚 サステナブル経営における解釈の一つとして、昨日と今日、そして明日が同じように安定した状態が持続するという考え方を持っている方がいらっしゃいますが、私は「サステナブル経営」とは、社会の変革を前提に、経営の意思決定そのものを進化させ続けられるかだと思います。
後藤 私がCEOに就任した際に「CEOの仕事とは?」というテーマで自問自答しましたが、それは持続的に企業価値を高める仕掛けをきちんと作っていくことだと思い至りました。例えば、当社はB to B 事業がメインなので、環境負荷低減やエネルギーマネジメントが非常に重要になります。そこを発想の起点として、私たちの企業活動を通じて、世の中の新しいエネルギー政策の一角を担えるような仕掛けができないかと考えています。やはり、当社が世の中を変えていく仕掛けとしては、自社の強みである「技術」を駆使してテクニカルに進めていきたい。そして人に関していえば、一般的にB to B 企業は知名度が低いのですが、SCREENという企業グループにみんなが入りたいと思っていただけるよう、企業ブランドを高めていくことも併せて行わないといけないと思っています。
小野塚 御社がアグレッシブにチャレンジできるのは、これまでに築いてきた土台があるからだと思います。しっかりとした土台があるからこそ、社員も「やってみたい!」という前向きな気持ちが生まれると思います。
後藤 土台(基礎)のない所に家は建ちません。構造物を造ろうと思ったら、やはり基礎が重要ですね。
私たちは150年以上の歳月をかけ、「愚直なまでに誠実に」取り組み、基礎を積み重ねてきました。順調なことばかりでなく、非常に辛いこと、苦しい時期もたくさんありましたが、当社の強みは、自分たちがどんなことに強いのかを知っており、その強みを伸ばすチャレンジができる風土だと思います。建物が建つ強固な基盤形成を進め、社員のチャレンジ精神を高めていけたらと考えています。
小野塚 なるほど。御社は「真面目さを土台にしながら、アグレッシブにワクワクする企業文化」を持つ企業ですね。
「思考展開」の精神から描くサステナブル経営の推進
小野塚 世界的に見ても長寿企業が多い京都には、国内でも独特のブランド力を感じます。その環境で150年以上にわたって事業を継続してきた御社としては、他の京都企業と比較して、独自性という点を含めどのように感じておられますか?
白石 私は「思考展開」という創業の精神が真っ先に浮かびます。これはまさしく、サステナブル経営そのものだと思います。当社には、世界中で誰もやったことがない技術を自分が手掛けたい、世界トップレベルの技術の獲得にチャレンジしたい、というマインドを持った社員が多いと自負しています。先人たちがチャレンジしてくれた思考展開の積み重ねをリスペクトしつつ、温故知新を体現し、当時とは全然違う社会課題にも立ち向かっていく。こうしたチャレンジは、Solution Creatorになるための当事者意識とオーナーシップにもつながると思います。そういうところを組織開発や管理者育成に生かすことで、サステナブル経営に資する人財マネジメントを実現できそうだと、今日あらためて感じています。
後藤 加えて、京都企業ならではの伝統・文化を維持しながらも、グローバル企業としての視座も大切だと考えます。今まで培ってきたものを資産として大切にしながら、アグレッシブに前人未到の次の一手を繰り出すというマインドセットが重要ですね。
小野塚 そうですね。技術という強みを“てこ”にして、スピード感を持ってアグレッシブに世界にチャレンジする。たとえ、安定した収益基盤となる事業があったとしても、その事業で得られた原資を生かし、新しい技術・事業の芽を試しながら、次につなげていくことが大事だということですね。確かに御社は、それを実現できる会社じゃないかと思います。
後藤 これからの社会は、先行きの不透明感を伴いながら、圧倒的なスケール感とスピード感で変わっていくと思います。AIテクノロジーの進化によって非財務領域の取り組みに企業価値向上の可能性が広がる一方、相応に注視するべき課題も大きくなるでしょう。そうした中で企業に求められるのは、変化を恐れず、自ら変化をつくる姿勢です。私たちには、150年以上にわたり積み重ねてきた技術と、真面目に、人を大切にする文化という、確かな土台があります。その土台の上で、社員一人一人が主体的に考え、行動し、社会課題の解決に貢献していく――この積み重ねこそが、企業価値を高めていく原動力になると信じています。不確実な時代だからこそ、サステナブルに挑戦を続けていきます。
井藤 私が担当するサステナビリティ戦略本部では、後藤社長がおっしゃったように、SCREENが社会に向き合う「姿勢」、社員一人一人の「志」の大切さなどを、社内に発信し浸透を図ることを目指しています。そうしたことが、社内の各組織や個々人に浸透し、その下で、社会へのさまざまな貢献、そしてステークホルダーへの課題解決に取り組むことが当たり前の状態になった暁には、少し極論ですが、サステナビリティ戦略本部のような組織の役割は薄れ、あるいは発展的に解消していけるのではと感じます。
小野塚 なるほど。本日の対話を通じて、SCREENのサステナブル経営は特別な施策ではなく、創業以来培ってきた「人」と「技術」を起点とする経営そのものだと感じました。目まぐるしい速さで変化が起きる現代においても、確かな土台の上で一人一人が考え、行動し、挑戦を積み重ねていく。その姿勢こそが、企業価値を形づくり、社会からの信頼につながっていくのだと思います。
「Be a Solution Creator」や「サスチャレ!」が日々の仕事の中に自然と根付き、SCREENがこれからも社会にとって欠かせない存在であり続ける——その未来が、今日の座談会から見えてきました。
本日は貴重なお話をありがとうございました。
ダイアログにご参加いただいた有識者
エミネントグループ株式会社 代表取締役社長CEO
小野塚 惠美(おのづか えみ)氏
東京理科大学大学院経営学研究科修了。JPモルガン、ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントを経て現職。資産運用に20年以上携わり、企業対話を年間200件以上実施。サステナブルファイナンスと事業の価値創造に関するアドバイザリー、金融庁等の委員を歴任。「アートラウンジ西陣紋彩組」で文化×サステナビリティの取り組みも展開。著書『サステナブル経営とサステナブル金融の接続』など。