光干渉断層撮影による口腔がんのがん細胞浸潤を可視化
-口腔がん3Dモデルにおけるがん細胞浸潤の非侵襲的・定量的評価の解析ツールとして期待-
新潟大学医歯学総合病院口腔再建外科の羽賀健太歯科医師、同学大学院医歯学総合研究科生体組織再生工学分野の泉健次教授、同研究科口腔病理学分野の田沼順一教授らの共同研究グループと株式会社SCREENホールディングス(本社:京都市上京区堀川通寺之内上る四丁目天神北町1番地の1)は、がん関連線維芽細胞を組み込んで腫瘍微小環境(注1)を再現した口腔がん3次元(3D)モデル(注2)に対し、光干渉断層撮影(OCT)(注3)を用いて口腔がん細胞の浸潤動態を可視化し、非侵襲的に観察することに成功しました。得られた画像について深層学習(注4)を行い、口腔がんの経時的浸潤動態を数値化しました。本システムは口腔がん細胞浸潤の非侵襲的・定量的評価を可能にし、繰り返し観察が行える有望なツールになることが期待されます。本研究成果は、2025年11月27日、学術誌『Scientific Reports』にオンラインで掲載されました。
【本研究成果のポイント】
- 口腔がん3Dインビトロモデルにおいて、口腔扁平上皮がんの浸潤を可視化することができる光干渉断層撮影(OCT)と深層学習を組み合わせた手法の有効性を検証しました。
- 高解像度なOCTイメージングにより、モデル内の組織構築としてがん細胞領域、浸潤がん細胞領域、間質層の3つの明確な領域を明瞭に可視化できることが明らかになりました。
- 本手法により、撮像した2次元のOCT画像から3次元画像を構築することで、定量的かつ経時的ながん細胞浸潤のモニタリングが可能となり、得られたがん細胞浸潤の指標とするパラメーターは口腔がん3Dモデルの組織形態計測データと高い相関を示しました。
- OCTイメージングシステムが、口腔がん3Dモデルにおけるがん細胞浸潤の非侵襲的・定量的評価を行うための新たな解析ツールとなることが期待されました。
Ⅰ.研究の背景
がん研究において、がん細胞自体を研究対象とするものと同様にがん細胞とその周囲からなる腫瘍微小環境(TME)が多くの注目を集めています。一方、光干渉断層撮影(OCT)は、ヒトの組織やがん細胞の3Dインビトロモデルを蛍光発色等の処置が不要であり、かつ非破壊的に、高い解像度を示す断面画像として、生体の組織構築をリアルタイムに提供する技術です。
本研究グループは、がん組織内の組織構造の無秩序化による散乱特性の変化をOCTが検知することで、正常組織との区別が可能で、がん細胞の浸潤動態を検出できると仮定し、口腔がんインビトロモデル内を可視化し、非侵襲的モニタリングによるOCTイメージングのがん研究への有用性を検証しました。
Ⅱ.研究の概要・成果
本研究グループは、TMEの主要成分であるがん関連線維芽細胞(CAF)を組み込んで培養したⅠ型コラーゲンゲル上部に口腔がん細胞を播種し、2種類の細胞を気相液相による共培養を行い、口腔がん3Dインビトロモデルを作製しました。それに対し、SCREENホールディングスのOCT撮影システムを用いて、口腔がん3Dモデルにおいてがん細胞浸潤を可視化し、その経時的モニタリングを実施しました(図1)。
そして、OCTから得られた口腔がん3Dモデルのスキャン画像に対し、がん細胞浸潤を定量的にモニタリングするため、画像認識に用いられる主要な深層学習アルゴリズムである畳み込みニューラルネットワーク(注5)を応用しました。この方法では、細胞を個別のオブジェクトとして分割し、がん細胞を周囲の他の構造物から分割された画像として抽出・検出します。がん細胞とCAFの画像認識を学習させたところ、がん細胞のみの領域(緑)と浸潤したがん細胞の領域(赤)として分類され、組織標本の顕微鏡画像と類似した画像が得られました(図2)。
あわせて、浸潤したがん細胞の領域(赤)に対して、3次元構築した画像から浸潤したがん細胞の体積測定を行い、がん細胞が経時的に浸潤していく様子を可視化・定量化しました(図3)。これにより、OCT画像から構築された3次元画像と、組織標本の顕微鏡画像から得たがん細胞浸潤を組織形態計測したパラメーターとが密接に相関していることが示唆されました。
本結果は、口腔がん3DインビトロモデルとOCTイメージングを統合するわれわれ独自のアプローチが、十分にがん研究の新たなツールとして適用可能で、実際に解析可能であることを明確に裏付けています。
Ⅲ.今後の展開
本システムは、従来の2D培養よりも臨床的に関連性の高い代替手段を提供し、腫瘍の進行や治療反応のリアルタイムモニタリングを可能にします。また、口腔がんの組織再現性が高く、組織構築が類似しているヒト細胞を用いた口腔がん3Dインビトロモデルに活用されることで、口腔がんやCAFに対する新規薬剤のスクリーニング、がん細胞浸潤に関わるバイオマーカーの探索や、個別化医療進展への貢献が期待されます。
Ⅳ.研究成果の公表
本研究成果は、2025年11月27日、科学誌「Scientific Reports」にオンライン掲載されました。
【論文タイトル】Quantitative and longitudinal monitoring of cancer cell invasion in a three-dimensional in vitro model of oral cancer using optical coherence tomography
【著者】Kenta Haga, Yoshifumi Kamimura, Manabu Yamazaki, Akinori Funayama, Yuko Saito, Masako Kida, Jun-ichi Tanuma, Kenji Izumi
【doi】10.1038/s41598-025-28471-y
【用語解説】
(注1)腫瘍微小環境(がん関連線維芽細胞 含む)
がん組織では、腫瘍微小環境(TME)というがん細胞とその周囲を取り巻くがん間質層の細胞成分(特にがん関連線維芽細胞(CAF)や腫瘍随伴マクロファージ)や細胞外マトリックス、および分泌因子などの非細胞成分を含む複雑な環境を形成し、がんの増殖、浸潤、転移、さらには治療抵抗性に深く関与しており、がん研究において多くの注目を集めている。
(注2)3Dインビトロモデル
間質細胞を埋没させたコラーゲンゲル上に上皮細胞を播種することで間質層と実質層からなる2層構造を付与することで口腔粘膜/皮膚の組織構造を模した細胞モデルである。培養過程で細胞の表面を空気に晒して細胞培養する、気相液相培養を用いることで立体構造を有する。
(注3)光干渉断層撮影(Optical Coherence Tomography)
近赤外光を用いて生体組織の断層画像を取得する非侵襲的なイメージング技術である。高解像度で組織の微細構造を観察でき、眼科や皮膚科、がん研究など幅広い分野で利用される。
(注4)深層学習
コンピューターがデータからパターンや規則を自動的に学習し、その知識を使って予測や判断を行う機械学習の一分野であり、人間の脳の神経回路を模した「ニューラルネットワーク」を多層にして用いる手法である。
(注5)畳み込みニューラルネットワーク
深層学習におけるアルゴリズムのなかで、画像認識の分野で用いられることが多い手法である。画像を小さなフィルタで解析し、エッジやパターンなどの特徴を階層的に学習し、画像データから物体を識別することが可能になる。
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