*ラバーセメント
デザイン処理用のゴム系の糊。水飴状の液体を適宜ソルベックスで薄めてから印画紙などの裏面に塗り、完全に乾く前に貼り付けたい位置で位置調整しながら貼り付ける。一度貼り付けた状態でも、後からいつでもシンナーで剥がすことが出来る反面、粘着力がそれほど高くないので、写植修正1文字などという場合は、製版の前に修正して貼り込んだ文字がなくなってしまうということも多かった。

**ソルベックス
ラバーセメント用のシンナー。通常のシンナーをアルコールで薄めたような溶液。

*最初に関わったページレイアウトは英文または欧文データであったため、さらに手作業と遜色ない操作性に惚れ込み、InDesignが出るまでは、Aldus時代よりPageMakerを使い続けており、それ以外のページレイアウトソフトはまったく使ったことはありません。
  ◆具体的には【図02】のように、写植を指定する際に各行の左右にガイドとなる方眼を入れた写植を印字してもらいます。次に、ガイドの天地を基準に、水平方向にカッターで軽く切れ込みを入れます。写植の印画紙は特別な場合を除き、普通の写真印画紙と同じような厚みがあるため、乳剤をコーティーングしてある一番上の部分に切れ込みを入れることで、完全に切り離さなくても張り替えが可能でした。
切れ込みを入れたら、それぞれの文字がギリギリにはぎ取れるように縦方向の切れ込みを入れます。ただし、実際には水平の切れ込みを入れた状態でいったん剥ぎ取ってから、裏面にラバーセメント*を塗り、布製のガムテープを貼ったダンボールのガムテープ部分に貼り付けてから、文字ごとにぎりぎりに縦方向の切れ込みをいれていました。あとはピンセットで1文字ずつ元の水平の切れ込み位置をガイドとして貼り合わせていきます。
Illustratorなどで1文字ずつ処理していることを、手作業でおこなっていたわけですから、いかに非効率であったかがお分かりいただけるでしょう。
もちろん、いつも手作業ですべての文字要素を調整していたわけではありません。当然優秀な写植屋も利用していましたが、料金は割増でいつも混んでいたために、予算の限られた仕事や、突発の仕事で利用することは絶望的でした。そのため、本文で詰め処理を必要とする場合も、すべて手詰めで写植を切り貼りすることも珍しくありませんでした。しかし、当然その場合も1ページものに限られますので、数10ページといった仕事の場合にもすべての文字を手詰めするなどということはありません。
さらに運良く予算に恵まれている仕事の場合であっても、所有書体も多く、詰め処理が上手な大手の写植屋あるいはメーカー直の写植窓口などでは、指定方法がダメというので用紙の書き直しを求められることも珍しくありませんでした。それも、『10Qツメ行間8歯アキ』か『10Qツメ行送り18歯』の違いと言った具合でした。ほとんど言いがかりの世界です。良くも悪くも当時の写植業は殿様商売であったからでしょう。
とにかく、写植の指定にFAXが利用できない時代でした。つまり、デザイナーの手元に届く文字原稿はコピーを何度も繰り返したことで発生した汚れが混じり、それに赤で指定をしてもFAXはモノクロですから、何が何なんだか分からなくなってしまいます。結局、電車を乗り継いで写植屋を往復するのがデザインワークのようになっていました。
そんな状態で仕事を進めてきた私にとって、初期のIllustratorやPageMaker*での文字組み処理は写植時代となんら変わることのない手作業でした。当時は、最新バージョンのようにプロ仕様の文字組みがオートで、あるいは計算通りに設定できることなど夢物語だったわけです。
もちろん、私の場合は前記しましたようにページ物が主流ではなかったことも影響しています。ただし、当時の私の仕事は90%が輸出関係で、しかもヨーロッパ向けのワークフロー中心でしたので、英仏独西の4か国表記が基本であり、本文の文字組みで悩むといったことはそれほどありませんでした。この点は恵まれていたかもしれません。
そして、長らく欧文デザインのワークフローに関わってきた私にとって、欧文の文字組みの合理性のような部分がどうして和文処理に適応できないのかという疑問を感じていました。例えば、均等割付ではなくて、左揃え、右成り行きといった文字組みなどがそれにあたります。左右均等揃えだけしかないという発想は、原稿用紙の呪縛だとさえ個人的には感じています。そもそも、書籍の本文組みという閉鎖した空間だけで考えるのであれば問題はないのですが、世の中を見渡してみると変則対応のオンパレードです。
     

 
 
↑仕上がってきた写植
↑ガイドに沿ってカッターで筋を入れる
↑各文字の水平部分の切れ込みを保ったままカッターで縦方向に筋を入れる
↑文字以外の余分な部分を削除する
↑1文字ずつ張り替えを行なってツメ処理をする
↑必要に応じてホワイト処理を行なって完成
【図02】
     
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